8月某日
父と甥っ子らと過ごした楽しくも、あわただしい夏が過ぎた。今日からロンドン。成田行きのバスで爆睡する。
空港のロイヤルホストで父と母に手紙を書く。取材に同行するTは頭痛薬を買いに。私はひたすら書く。
成田の時間は大好きだ。Tがユニクロの長袖シャツを買ってくる。ロンドンは寒いとか。
それにしてもお盆で人の多いこと。新品の靴とポシェット斜めがけの人たちは、皆どこに行くのかといつも思う。
飛行機の12時間はあっという間。気が付けばサンクトペテルブルク上空。昔はひどく疲れてイヤだったのに、今は何もせず、読書(文庫2冊)&食事(再び質が下がる)&睡眠がとれる有り難さ。
ヒースローでキャブの出迎え。なぜタクシーよりキャブは安いのかと毎回不思議。
ドライバーのケータイに妻から早く帰れ、ゴールダーズ・グリーンでスイカを買ってこいと何度もTELがあり、そのたびにため息。何と一日に10回とか! でも知的な人だった。こういう職種の人が知的というのはひどくホッとする。
6月以来のロンドン。
隠れ家のテーブルには花束とフルーツボックスが。嬉しい。NW3のドンからだ。ミモザとオレンジのバラのブーケは本当にきれい。細長い花瓶に合わないことが残念だが、キッチンで生ける。
8月某日
久々の夕食を坂道レストランでスパゲッティにする。
それにしても、イギリスのレストランは人々のささやくような声と食器のカチャカチャ響く音のみ。個人経営の小さなレストランは静かな所が多くてホッとする。
日本でレストラン、カフェ、喫茶店に入るたび、何度、耳が悪いので音を下げてくださいと頼んだことか。うるさい音楽だと、人はそれに負けない大声で喋る。それが仕事の後となれば拷問のよう。やかましい音楽が客サービスのつもりなのかと腹が立つ。
こんな私は、爆音のようなロックと人でもみくちゃの荒くれパブなど近寄ることもできない。
8月某日
夜中3時に起きた。時差ボケだ。夜明けまでとっておきの読書。
今朝はNW3のドン、Mr.アルカポーネのところに行く。なぜこの人は、私たちに時間を提供してくれるのか。
尊敬の眼差しで仕事の話を聞く。話は面白く、秘書嬢を交え1時間ほど話す。ドンの会社に行く時は緊張するが、彼らがいなくなることは考えられない。
その後、書類手続きで役所に出向く。新任黒人男性の怖いこと。書類の書き方、英語の説明が不明だったが、 Tは理解できたという。
すごいなぁ。彼は英語を勉強中。いつかイギリスに住みたいと、おそろしくマジで語る。昼は学校、夜は国際電話で日本に営業し、会社は辞めないと。
ボンドストリート駅で降りると、にわか雨。Tは本屋さん2軒へ挨拶回り。ロンドンでも大阪でもやる事は同じ。パリの店舗もマネージメントするJPブックスのタツザト氏と販売戦略、その他を話したTと喜びを分かつ。
その後セルフリッジ、M&S(マークス&スペンサー)で家庭用品物色。人混みと排気ガスでクラクラ。セールも終わり、大した収穫なし。
夜、Tがテスコから玉ネギを買ってきて、恒例の「辛ラーメン」玉ネギ入りを食べる。部屋には皆で買い貯めた「辛ラーメン」のストックが山ほどある。
2日目も資料も読めず爆睡。
明日、ドンに時間をとってもらうためには、原稿を再読しなければ。が、椅子に座っただけで居眠り状態。翌朝6時起きすることに。
東京での疲労が一気に吹き出して、泥のように眠る。再び3時に目が覚めて、フリーマガジンを読み、原稿書く。時差ボケ。
8月某日
インタビュー2回目。秘書嬢からは10時か12時でと言われたが、10時はムリで、12時目指すも、ドンに1時半にしてと言われホッとする。何とか質問をまとめ、1時間仮眠。その後、Tと時間まで撮影。
この日は週末だったが、ドンは土曜日も日曜日も一人、オフィスに出ているらしい。会社のトップが人一倍働き者で、人一倍向上心に溢れている。
駅前が工事のため、バス運休。タクシーで向かう。ドンは新聞の切り抜きをたくさんくれた。
約1時間、話したのち、焼きたてクロワッサンをあげると「気を遣わないで」と困り顔をされ、「これ持って行け」と、上等なシャンパンをもらった。クロワッサンVS高級シャンパン。
Tがお腹空いたとしつこいので、「Gコテージ」でダック・オン・ザ・ライスとブロッコリーのオイスターソース炒め、コーンスープを1つずつ、2人でシェア。ドンの好物を私たちも大好きになった。
8月某日
ハイゲイトビレッジへ。丘の上の村は、画家Pに会って以来、憧れだった。
またも、にわか雨。街はどこかの片田舎のようで、通りの向こうに大ロンドンが見渡せる。
小さな商店街。walterという雑貨店の店主が店番そっちのけで幼い娘と本気で遊んでいた。売ってる物がとても少ないのに、ほとんどセール価格。
NESSの長靴を10ポンドで買う! 紺色ベース、ピンクのチェックのデザイン。足にぴったりの1足のみが売ってある。今日のピクニックコンサートはこれで行こう。
子どもの頃の日曜日を思い出す。切なく、淋しい風景。マルクスの墓があるハイゲイト。ここのビレッジは人里離れてる感が強い。なぜだろうと考える。
さて、ケンウッドピクニックコンサートは入口にも警備員がたくさん。皆、ハンパーバスケットやブランケットを持って、会場へそぞろ歩いている。長靴、ブーツを履いてる人も多し。雨上がりで道がぬかるみ、NESSの長靴が大活躍。
写真で何度も見ていた初めてのケンウッドハウスに感激する。(「ノッティングヒルの恋人」でもお馴染みの白亜の建物です)
なだらかな丘陵を下りたところに屋外ステージあり。背後は湖。それを取り囲む大勢の人々。夏を楽しむイギリス人の情熱が燃えたぎっている。
Tは場内を練り歩き、皆のピクニックディナーを撮影。
雨は上がり、ヒースを抜ける風は水のようにひんやりとしている。
たくさんの仮設トイレにはトイレットペーパーもあり。そのきれいなことに驚く。ゴミ箱もたくさん設置されている。日本の公園と違う、設備の充実。
高そうな服を着た、ロンドンの金持ちがやってきても耐えうる野外コンサートはこうでなければ。基本的設備やイベントの力の違いは、人生を楽しみつくす能力の差だ。
いわば、遊び上手な人と遊ぶことに興味のない人では、「何かせよ」となっても、発想そのものが違うのではないか。あるいは、屋外を楽しむ西洋人のDNAか。
公園を中心にした四季折々の風物詩的イベント。そこに絡むアーティストの収益、そして捻出されるケンウッドなど文化財の維持費。みんな一つの輪になって、幸せなお金が社会でクルクル循環している。
終了前に会場を出る。ヒースを抜けて帰ろうと提案するが、真っ暗で迷うと、警備員にも反対される。結局、バスでゴールダーズ・グリーンに出て、そこからタクシー。
疲労困憊。夕食をあきらめ、早朝撮影に備え休む。12時。
8月某日
最終日。マーケット開店前にカムデンに行き、ヘンプの専門店撮影。セールで5ポンドの服は中国製だった。オーガニックコットン、本当かなと改めて商品を見る。
チョークファーム駅に抜けようとステイブルズ・マーケットを歩くと中国人につかまり、4ポンドの中華詰め合わせランチ食べることに。
カムデンの日曜日、皆の表情は楽し気。いつか甥を連れてきたいと思った。こんな美しい夏の日を親にも見せたかった。
その後、通風で足が痛むTを励まし地下鉄で隠れ家に戻る。あわてて部屋の片付けをしつつ、せめて掃除機をかけたかったと後悔する。
ロンドンでの夏が終わる。
帰路ヒースローでTAXリファウンド(免税)の手続きをしようとしたら、長蛇の列が建物の外にまで続いていた。中国人の団体だ。2時間くらいかかりそう。これではTAX FREEの意味がない。
ロンドンのいたるところで、中国人のツアーグループが出没した。中国マネーに物を言わせ、アラブのドラ息子のようにセルフリッジでスーパーブランドの時計やバッグを何個も買っていた。すごい光景だ。ところが、彼らは手続きに慣れていない。係員は声を枯らし、「住所は番地まで書いて! 今朝から何人の中国人に教えたと思うの!」と髪をふり乱していた。チェックインして、免税店内で手続きするも、現金受け取りに並ぶ。またも中国人の団体。
ヒースローの入国審査と免税手続きはいつも疑問。係官をなぜ増やさないのか。五輪に向けて増やすのか。
サービス改善はイギリスの大きな課題だ。
飛行機に乗るとどっと眠くなった。今やロンドンは大阪くらいの距離感。それが嬉しい。
現在新作執筆中。ロンドンのお話です。(ケンウッドハウス)
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