マンション大規模修繕工事のコンサルタントを中心に、 建物のリニューアルのスペシャリストとして活躍する「ファーマ一級建築事務所」。同事務所の取り組みを、代表の望月氏に伺った。
日本の建築業界が長年にわたり提唱してきた「スクラップ・アンド・ビルド」に対し、定期的に建物の状態に応じて修繕しながら維持管理を徹底し、技術力で建物の寿命を延ばそうというコンセプトをもとに、建物の劣化や不具合を診断し、必要に応じて外壁、構造などに適正な修繕や処置を施すなど、その取り組みに熱い注目が集まる『ファーマ一級建築士事務所』。改修設計や工事会社選定のコンサルティング、工事監理、アフターケアまで幅広くこなし、物を粗末にしない日本の伝統的な精神を建築業界に生かしつつ、環境保全や地域の健全なまちづくりへ貢献している。代表の望月氏は、ゼネコン出身で、建築現場で技術的な裏づけとしてのキャリアを積んだ経歴の持ち主。ソフト面、ハード面の両面を熟知した建築のプロフェッショナルの視点から、建物の劣化や不具合について的確な診断を実践し、材料の選定や工程の決定においても綿密な調査、十分な比較検討を行ない、コスト的に無駄は出ないよう慎重に建築物を処理するなど、クライアントに高い満足度を与えられるリニューアルを実現。また、定期的に建物の状態に応じた修繕をしていく計画を策定することで建物の延命化を推進している。
同社では、ビルやマンションの修繕を主に扱っているが、商業ビルや事務所ビルのオーナーは、「ビルに手を加えずに経費を抑えてなるべく現状維持でしのぎたい」という意識が先にあるが、区分所有のマンションでは世帯ごとに毎月定額のお金を積み立て、適切な時期がくれば修繕する準備をするシステム。同社では、主に首都圏をメーンとしたこのようなマンションの管理組合に対してコンサルティング。管理組合の会議にも積極的に参加し,居住者とのコミュニケーションを大切にしている。同社の提案するサービスとして好評なのが「マンションの入居後2年目点検の補助業務」。通常、マンションの新築2年目は、居住者の購入時に売り主が示す項目について問題が出ていれば、売り主の責任で補修するのが一般的。しかし、管理組合のメンバーは、建築に関わりのない人も多く仕事のない週末を利用して管理組合としての活動に参加している人がほとんどだ。「共用部は管理会社や管理組合役員に、専有部やベランダは区分所有者に問題の指摘を求めるのは無理がある。専門家に相談すべき」と望月社長。修繕前より修繕後の建物の価値が高まっていることを望む居住者の、バリアフリー化や防犯性の向上といった様々な付加価値の要求にも、費用面と照らし合わせながらアドバイスしたり、工事の必要性を分かりやすく説明。すべての住民が納得できるよう、第三者の立場で公平・公正に工事会社を選ぶサポートをはじめ、選ばれた工事会社がスムーズな流れのなかで契約通りの工事をしているかを実際に足場に登って確認。さらに材料や工程の適正さや仕上がりの美しさまで発注者の目に代わって厳しくチェックする。仕上げに隠れている建物の見えない部分にまで配慮するなど、技術的なキャリアを根拠にしたこれらの的確な業務は、豊富な技術的経験をもつ同社だからこそ出来うるサービス。
長期修繕計画を策定する際にも、住民に根拠を示しながら具体的な試算を交えて説明。単に「いずれまたお金が必要になりますよ」ということではなく、「今後はこういう工事をしなければならないので、積立金をあとどれくらい確保してください」と明確に伝えるよう心がけている。また、維持保全において重要なアフターケアも、修繕工事終了後は、工事会社に対して防水や塗装などのメンテナンス計画の設定と保証期間を定め、それを文書化するなど充実のサービスで安心だ。
同事務所は今年創業10周年を迎えるが、この間手がけた建物の数は100棟を超え、施工エリアも東京・横浜から関東一円へと拡大している。その実績からも同事務所に寄せられる周囲からの厚い信頼度が窺える。その大きな要因として、「公明正大であることと、正義感を重視すること」をモットーとし、利益を追求しない同社の業務に対する誠実な姿勢が挙げられるだろう。オフィスに出勤の必要がなければ直行・直帰を基本とし、ITによる情報共有を利用するなど経費削減にも工夫。出来る限りお客様に還元したいという思いが覗える。
代表の望月氏は、現在『NPO法人 リニューアル技術開発協会』で会長代行を務めている。同協会は、リニューアルに関する技術者の教育や、新技術の浸透と発展を目的に120超の会員企業で講演会や勉強会を開くなど、精力的に活動。「リニューアルはゼロから建てる新築とは違った難しさがある。現状のものを調査・診断し、それをどう直すか。それに高い技術で応えられる人材を育てることこそ、日本の建築が次段階へ飛躍するために最も大切」と人材育成にも強い意欲を示す望月代表。今後も、同社は建物のリニューアル市場の活性化に大きく貢献していくことだろう。
(ライター/石崎緑子)