日本が誇るビジネス大賞 2016


イギリス生活情報誌 
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株式会社ジー・ディー・エス
代表取締役 谷野剛一氏

静岡県浜松市出身。青山学院大学経済学部経済学科卒業。愛知大学大学院経済学科研究科修了。ヤマハ発動機を経て父親が経営する谷野税務会計事務所勤務。1988年、有限会社データハウス21設立。翌年「宗家にんにくや」管理部門設置。中部印刷監査役を経て1999年、『ジー・ディー・エス』設立。

農家との連携による新事業創出
半径5キロ内の野菜活用にカギ

 浜名湖の東、畑や竹林が広がる静岡県浜松市西区大久保地区に2016年4月、新しい経営形態のレストランがオープンする。フランチャイズ方式で飲食事業を展開する「株式会社ジー・ディー・エス」と地元の農家、公職にある有力者などがNPO特定非営利法人を結成、農家から土地と空き家の倉庫を借り、レストランに改装、運営を「ジー・ディー・エス」に委託する方法だ。最大の特徴は、半径5キロ圏内の農家の畑で採れた野菜を提供すること。地域の力を結集して農業の6次産業化を推進する試みとして各方面の注目を集め、事業が成功すれば全国に広がる可能性を秘めた画期的な取り組みだ。
 企画・立案したのは『ジー・ディー・エス』の社長谷野剛一さん。故郷、浜松を元気にしたいとフランチャイズ方式で大規模に飲食店を展開してきたが、農業の活性化に協力できないか考えた末、農家や地元選出の議員や自治会長に呼びかけ、2015年11月、NPO特定非営利法人「OHKUVO(おおくぼ)」を立ち上げ、代表理事に就いた。NPO法人の認証を受ける申請で、「地域の一次産業と心の豊かさを追求し多文化・多世代・多様性の交流と相互理解を推進することを理念とし、放棄地や未活用の施設を活用して、成長や気付きのきっかけになる交流の交差点として築く事業を実施し、不特定かつ多数のものの豊かさの増進に寄与すること」を目的に掲げた。この目的を実現する拠点がレストランだ。
 NPO法人に参加した農家から使われていない約40アールの土地と約165㎡の空き家の倉庫を提供してもらい、倉庫をテラス付きのレストランに改装した。店名を「緑の谷のごちそうテラスCoCoChi」と名付け、開店に向けて準備を進めている。最大のセールスポイントとして計画しているのがサラダバー。半径5キロ圏内の畑で栽培された新鮮な野菜類を毎日届けてもらい、味わってもらう趣向だ。料理も野菜を生かしたメニューを用意する計画だ。
「浜松は野菜の種類の多さで国内屈指の産地。その強みを生かして農業を活性化させる方法を考えてきました。農業を農作物を作るだけの1次産業から食品加工や流通販売も手掛けて収益基盤を強化するいわゆる6次産業化の一形態として農家とタイアップして飲食業を展開する道を模索し、辿り着いたのがレストランです。農家から野菜を仕入れて料理を提供する従来の方法ではなく、農家の方たちに当事者意識を持っていただくことが重要と考え、農家の方たちも参加するNPO法人という形をとりました」
 この方式による事業には多くの利点があると谷野さんは指摘する。
「運営は飲食店の経営実績がある当社が担うことで、地域の野菜づくりと当社の経営手法のコラボによる相乗効果が生まれます。農家の方は自分たちが作った野菜の価値を値段という形で確認できますし、美味しそうに食べている様子を見れば、生産意欲が湧いてくるでしょう。また搬入先がすぐそばなので、おばあちゃんが乳母車に野菜を積んで運んで来ることもできます。トラックで遠くに出荷するのに比べ、CO2の排ガスの削減にもなり、環境にやさしい事業ともいえます」
 レストランは天井が5mと高く、開放感があり、大きなガラス窓から田園風景を見ながら食事ができる。敷地内ではニワトリを放し飼いにして、子どもたちに卵を拾ってもらい、卵がけご飯を味わってもらう食育ともいえるプランや梅林で梅の収穫を楽しんでもらうことも計画している。竹林は食後の散策に最適だ。約1500㎡の駐車場もある。開店に向け準備に余念のない谷野さんには、多くの人たちが笑顔で食事と農業体験、自然を楽しむ情景が目に浮かんでいる。
 谷野さんは、「炭火焼肉酒家・牛角」「居酒家かまどか」「居酒家宴土間土間」「ビストロ呉服町Combine」「串焼き・釜飯 姫物語」「遠州や十兵衛」の6業態66店舗を展開するマルチフランチャイザー。これほどまでの展開を支えたのはリスク低下、高い成長性、収益性確保を可能にする独自のフランチャイズシステムだ。約1ヵ月間の店長向け集中研修や開店前のオペレーション研修による人財育成、開業後のスーパーバイザーによる店舗運営サポート、顧客満足度を数値で集計する仕組みや店舗運営の現状を把握し日次で管理・分析・改善ができるシステムの導入などで店作りから経営まで多角的にバックアップするシステム。その実績を背景に地域農業の活性化をテーマに新たに挑んだのが新事業。故郷を元気にする意欲と夢は膨らむ一方だ。
(ライター/斎藤紘)

株式会社 ジー・ディー・エス
TEL:053-482-3768 FAX:053-482-3769 Eメール:home@gds.co.jp
ホームページ http://www.gds.co.jp/

株式会社 ナガラ
代表取締役 早瀬實氏

愛知県出身。工業高校卒業後、プレス会社に就職、金型製作の必要性を上申。同時に米国開発の通信教育を受講して科学的な金型製作の技術を学ぶ。1979年に『ナガラ』を創業。翌年、社屋新設して操業開始。大手メーカーとの直接取引、海外技術協力、新工場建設と積極的に事業を進める。

農業に励み社員の健康支える
金型生産の新たな拠点も構築

「社員の元気が会社を成長させる源」。国内の自動車メーカーを高度の金型成形技術で支えている名古屋市の『ナガラ』の代表取締役早瀬實さんは、世界レベルの技術を追求する経営者からは想像できないもう一つの顔を持つ。農家の顔だ。家業の農業を引き継ぎ、時間をみては農作業に精を出す。畑で栽培し収穫した野菜を社員全員に毎日配る。社員の健康に人一倍気を遣う経営者の姿がそこにはある。
「元々実家が農業を営んでいまして、それを引き継いでやっています。野菜を栽培していますが、野菜は季節によって春野菜とか夏野菜とか冬野菜とか、それぞれ種植え、手入れ、収穫の時期があり、それに合わせて休みの日は朝から晩まで畑に出ています。妻にはうちは母子家庭ですかと皮肉られたりしますが、手入れして野菜がすくすく育つのはうれしいものです。採れた新鮮な野菜を社員たちに配っているのは、食べて健康に役立ててもらいたいという気持ちからです。当社には最先端の機器類がそろっていますが、最後は人の手にかかっていますから。病欠の社員はほとんどいませんし、私も病院にかかった記憶がありません。新鮮な野菜の栄養のお陰だと思っています」
 仕事で遅くまでいる社員には、何をしていても手を止めさせて食事させる。早瀬さんのスケジュール手帳には、2016年の農作業の日程が書き込まれ、経営者と農家の兼業は生きがいにもなっているようだ。
 1980年創業の同社は、「トヨタ自動車」をはじめ国内自動車メーカーの金型を製造し、地歩を築いてきた。「トヨタ」で一番多く売れている「アクア」の骨格の一部は、同社製。「トヨタ」の自動搬送設備も同社製で、「トヨタ」の標準部品になっている。「日産」とはエンジンブロックのクランクシャフトを開発。板厚50㎜に13㎜の穴径を成功させたのは、同社と「杉原プレス」で開発したプレス、「カムリンクプレス」の成果だ。現在1200tまで作り、トヨタ系列や岩手大学などが導入している。
「カムリンクプレス(1200t)」は、機械部品の運動の方向を変えるカム機構を備え、2㎜の厚板や高強度材の加工ができるうえ、サーボモータを使用したサーボプレスよりイニシャルコストが半分、モータ容量が約1/10、消費電力が約1/3、しかも加圧保持時間が長く、省コスト、省規模性が高く、基礎工事も不要で、難成形部品の試作生産の悩みを解決する。住宅用の鉄骨部品をはじめあらゆる産業で利用が可能だ。4月に東京ビッグサイトで開かれる「INTERMOLD 2016(第27回金型加工技術展)」に出展し、優れた特性をアピールする計画だ。
 早瀬さんは、2015年8月、日本金型工業会西部支部の講演会で「新しい時代の新しい金型経営」と題して講演し、本社にもう1棟工場を完成させる計画を公表し、国内生産拠点の拡充路線を印象付けた。
「新設したのは北工場、12月に完成しました。最新機械を4台導入したほか物流ヤードもあります。ここで中枢的な金型作りを進め、将来的は技術・機械加工の拠点に進化させ、三重県桑名市多度町に2007年に建てた三重工場と連携させて国内生産拠点の充実を図っていく計画です。新工場は、地域の住民が使えるように180人を収容できる多目的ホールも設けました。プロジェクターやマイクなどの設備も備え、子ども会やお年寄りの集い、セミナーなどに使っていただけます。壁には金型が飾ってありますので、当社が手掛ける金型がどんなものなのかを知っていただく機会にもなります。大企業と取引が多い会社ですが、地域の皆様のご理解が大事だと思っています」
 自動車業界では自動運転車の開発が本格化してきた。政府は、2020年の東京オリンピックでの実現を目指し、2017年から公道での自動運転車のテストを許可、開発に拍車がかかる。自動車の進化とともに歩んできた早瀬さんの視野にはその動向がしっかりとらえられている。
「モノ作りは、先々の動向を見て技術開発に取り組まなければ、進化に追いつけません。自動運転車は目前に迫った課題。何より安全性が確立しなければ普及はおぼつかない。完成品ができるまでには多くのモデルチェンジが必要になるでしょう。自動車づくりを支えて来た豊富な経験と知見、最先端の機器と設備、ソフトウエア、それに優れた技術を持つ社員たちの力を結集して、安全な次世代自動車の製造に資する金型を追求していきたいと思っています」
 金型製作の先端技術を追求し続け、社員を大切にしながら会社を牽引してきた早瀬さんの視野には、常に新たな地平が広がっている。
(ライター/斎藤紘)

株式会社 ナガラ
TEL:052-362-6066 FAX:052-362-2232 Eメール:office@nagara.gr.jp
ホームページ http://www.nagara.biz/

株式会社 MsEnergy
代表取締役 藤原優昭氏

鳥取県出身。商業高校卒業後、自動車販売会社の整備士、タイヤメーカーのカーショップの店長を経験。結婚後、夫人の郷里の熊本に移り、物流会社の部長を経て、2011年、独立、オフィス家具の組立・設置を始める。2013年、『MsEnergy』を設立して事業展開、「日本セラフィムソーラー」で太陽光発電事業も推進。

高級感際立つ斬新なバー出店
飲食業展開で事業の翼広げる

 ステンレスとガラスの造形が醸しだすゴージャスな雰囲気の中で、ワンショット2万5千円の最高峰コニャックを楽しむ。2015年12月、熊本市一の繁華街、下通商店街の一角にオープンした『BAR mirrorz-A(ミラーズエース)』。九州一円でオフィス家具の組立や太陽光発電の事業を展開する『株式会社MsEnergy(エムズエナジー)』代表取締役の藤原優昭さんが長年夢見てきた飲食業への進出に踏み出した記念となる1号店だ。都会的で隠れ屋的な造り、運営スタンスに社長の経験と思い、ビジネス感覚、美的センスが凝縮され、飲食業界、アルコール通の間で注目度は上がる一方だ。
「ビジネスの世界に足を踏み入れた当初から、飲食業界への参入を考えていました。美味しい料理や飲み物を楽しむ光景を思い描きながら構想を練り、ファーストステップとして、アルコール好きが一度は飲んでみたいと思うような銘酒が楽しめるお店を考えて出店したのが『ミラーズエース』です。『ミラーズ』には、お客様がその時の心を写し出し、自分自身と向き合うひとときを過すことができる、そんな空間を提供したいという想いを込めています」
 カウンターとボトル棚、椅子6脚の小さなお店だが、空間デザインに工夫を重ね、狭さを感じさせないようステンレスやガラスを使って高級感を漂わせる。メニューを見れば、社長のこだわりがわかる。コニャック界の老舗ブランド、レミーマルタンの最上級ブランド「ルイ13世」、入手困難な酒齢25年を超える長期熟成のスーパープレミアムウイスキー「サントリーシングルモルトウイスキー山崎25年」、バランタインの最高峰に輝くスコットランドの宝物「バランタイン30年」、シングルモルトの最高峰といわれる長期熟成「ザ マッカラン18年」をはじめ、スコッチ、ブランデー、バーボン、ビール、カクテル、焼酎など世界、国内の名だたる銘酒が並ぶ。グラスも世界に輝く「最良の素材、最高の技術」の「バカラ」のグラスを使用している。飲み物に合わせてグラスが変わるので、それもまた楽しみの一つだ。
「様々な希少なお酒をご用意し、ワンショットからお楽しみいただけます。店内の独特の雰囲気を楽しみながらお酒を堪能し、優雅なひとときをお過ごし頂けるよう心を配っていきたいと思っています」
 鳥取出身の藤原さんは、商業高校卒業後、自動車販売会社に就職、整備士として活躍しながら自動車レースに興味を抱いて参加するようになり、仕事との両立が難しくなった時、タイヤメーカーに請われて自動車店経営に転進。結婚後、夫人の郷里の熊本に移り、物流会社に入社、管理職を経て39歳で退職。
 退職後、個人事業としてメーカーから仕事を請け負いながら、オフィス家具、什器について知識を蓄え、組立、設置の技術を磨いた。会社設立後も、提携関係を結んだ大手オフィス什器会社との取り引きの中で示される図面やデータからレイアウトデザインの手法を覚えていった。今では関連商品の販売、オフィスの移転、設備工事、組立作業を代行する家庭用家具サービスまで九州一円で事業を展開している。
「オフィスの環境は、効率的な業務の遂行や社員のモチベーション向上に直接影響する重要な基盤です。業務を円滑に進めるためのゾーニング、動線の設定、デスクなどを考慮しながらレイアウトデザイン、什器、家具を提案し、仕上がりの美しさを追求してきました。その努力が業務拡大につながったと思っています」
 同社は太陽光発電事業にも参入、発電用の機器の販売、設置、施工、管理を担う「日本セラフィムソーラー」を設立し、『MsEnergy』が営業を担当、全国規模で事業を推進している。扱うソーラーパネルは大手メーカーとの連携している。
 そして三本目の柱となる飲食業の展開。
「今後はさらに、美味しい料理を楽しみ、気軽に来店できるようリーズナブルな価格設定にしたパスタのお店なども考えています。将来的には複数の店舗を開いて知名度を上げ、フランチャイズ展開できればと、様々な角度から構想を練っています」
 その第一歩となる『BAR mirrorz-A』にかける社長の期待は大きい。
(ライター/斎藤紘)

株式会社 MsEnergy
TEL:096-234-7955 FAX:096-234-7956
ホームページ http://www.msenergy.info/
『BAR mirrorz-A』
ホームページ http://mirrorz-a.com/

株式会社 大島工業
代表 大島康一郎氏

宮城県仙台市出身。学業修了後、廃品回収やスイカ、竹竿の行商などを経験、解体業に携る。地元の老舗建築会社に就職し、9年間の勤務を経て『大島工業』を設立。従業員21人を擁するまで成長させる。労働条件の整備に力を入れ、震災復興にも尽力。

安心して働ける環境をつくり
心を一つに復興に向かう

 2011年(平成23年)3月11日14時46分、宮城県仙台市の東方沖70㎞の太平洋の海底を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。それに伴い未曾有の大災害をもたらした東日本大震災から5年が経ったが、未だ私たちの記憶には新しいことである。
 当時、仙台市で自らが被災したにもかかわらず、その直後から地元の復興へ向けて力を尽くしている会社がある。宮城県を中心にビルやマンションの型枠解体工事を手掛ける『大島工業』。一般住宅からマンションや大型商業施設まで、建物の建造にはコンクリートが欠かせない。鉄筋が組み込まれた廻りを設計図どおりにベニヤや桟木等で建物の形に合うように型を作り、コンクリートを流し込むのが型枠工事だ。これは通常型枠大工が手掛ける。型枠に流し込んだコンクリートが固まったら、バールなどを使って型枠を剥がしていく。この作業が型枠解体だ。一気に解体するのではなく、通常は柱、壁、梁側型枠の解体、梁底、床版型枠の解体の順で解体していく。いずれも建設の現場には不可欠な仕事である。
『大島工業』の代表である大島康一郎さんは、震災直後から瓦礫の撤去や道路、土地の整備にも携わり、本格的な復興工事が始まってからもその槌音を自分の耳で聞きながら、進捗の様子を目の当たりにしてきた。5年を経た復興の様子と現在のお仕事についてお聞きした。
「ここ宮城県でも仙台などの都市部では、復興工事の大部分が片付いて、震災前の生活がだいぶ戻ってきているように思います。しかしながら津波の被害が大きかった石巻や気仙沼などの海岸沿いの地域では、まだまだ復興途中のところが多く、中には未だに計画の目途さえ立っていないところもあります。仕事としては海岸地域での作業が増えています。同じ太平洋沿岸の地域でいえば、福島県の南相馬での復興住宅建設の仕事が多くなっています。また、東京では2020年のオリンピック開催に向けて、国立競技場を初めとする数々の施設の建設や周辺整備の工事が本格的に始まりますが、こちらでは最盛期に比べて少しずつ落ち着いて来ています」。
 大島さんは、会社の運営にあたって次のような「大島流、経営の極意」を経営理念として掲げている。
・安心して働ける環境をつくる
・優秀な職人を擁する
・心を一つに復興に向かう
 絆を大事にし、高い技術を擁し地域や社会に貢献していく。
「安心して働ける環境をつくる」。これには、大島さんが会社務めをしていた時に経験した苦労を、従業員の皆には味わってほしくないという強い気持ちが込められている。「建設現場がどれだけ厳しい状況かということを皆さんあまりご存じないと思います。いくつもの現場を抱えながら、期日までに仕上げなければならない。そのような過酷な状況が続き、体を壊して辞めたりで、1ヵ月続く人はほとんどいません。きつい仕事もさることながら、建設業界は日払いが通例で生活が不安定なことも長続きしない要因の一つだと思っています」。『大島工業』では、従業員たちが安定的な生活を送れるようにと労働環境の改善に尽力。社会保険への加入、退職金や休日などの制度を設けるなど一般企業のような労働環境を整えることで安心して働ける環境づくりに意を注いでいる。社会保険制度に関する整備そのものが他業種に比べ遅れている建設業界では、今年からマイナンバー制度が利用開始されたことにより、社会保険への加入をはじめ、きちんとした従業員の労務管理を求められることになる。『大島工業』の取り組みは、まさに時代を先取りしていたことになる。「しかし課題がないわけではありません。40〜50代の従業員の中には、年金や社会保険料が払えないからこの仕事をしている人もいます。その人たちを強制的に加入させても貰えるのは70歳を過ぎてからになってしまいます。その歳まで働き続けなければならなくなる訳ですが、現状は65歳以上は現場へ入ることができません。そのためにも、65歳を過ぎた従業員が働ける別の仕組みを今思案しているところです。現在元々7、8人で始めた会社が翌年には倍の人数になっていました。出入りはありましたが、今は20代の若い層も含め固定してきました。若い世代にはやがて会社を背負って立つくらいの気持ちでいて欲しいです。現場をまかせられるなら独立も応援しています。そのためにも下の者から慕われる人望のある親方になって欲しい」。「大島流、経営の極意」が見事に花開き、着実に躍進を続ける『大島工業』。未来への展望を大島さんは次のように語った。「震災後の復興に尽力した大島工業として、未来に名前を残す仕事をしたいですね。例えば100年後には技術の進歩、人類の叡智の結晶として現在とは全く異なる災害対策の設備ができているでしょう。今それを想像することはできませんが、その工事に携われないことがとても残念です」。
(ライター/後藤宏幸)

株式会社 大島工業
TEL:022-397-8426 FAX:022-397-8429 Eメール:ttkhw755910@yahoo.co.jp
ホームページ http://www.1049.cc/web/ohshima/

クマガイ電工 株式会社
代表取締役社長 熊谷康正氏

大阪府出身。大学の電気電子工学科で学ぶ。卒業後、日立製作所に入社。編集機器のソフトや写植など印刷技術の開発に取り組む。4年間勤務して退社、父親熊谷守正氏が経営する『クマガイ電工』に入社。2011年、経営を引き継ぎ代表取締役社長に就任。取締役会長の守正氏の下で事業を牽引。

創意際立つヒートテクノロジー
技術革新追求するエンジニア魂

 ヒートテクノロジーが生み出した高性能の防寒・保温用品でトップシェアを誇る大阪府八尾市の『クマガイ電工』は1995年から2014年までの間に19件の特許を取得した。代表取締役社長の熊谷康正さんや父親の会長守正さん、スタッフが発明者として名を連ねる。消費者のニーズ、社会動向の洞察から生まれるアイデアを具体化する技術を追求し、製品化する同社の伝統的な商品開発プロセスを象徴するものだ。
「オリジナル商品の開発に当たっては、幹部とスタッフが同席する企画会議でアイデアや新しい技術を提案し、自由闊達に意見を出し合い、多角的に検討を加えて製品化の可否を判断する創意重視の社風が定着し、基本設計、電気回路や機構の設計、生産工程の策定、施工具の製作などのプロセスを進化させる力になっています」
 こうした社風の中で、同社が取得した特許は、浴槽湯加熱装置、瞬間給湯装置、水槽等の加熱装置、炊飯器における加熱手段を備えた蓋構造、手袋、外套など多岐にわたるが、「SUNART(サンアート)」ブランドで製品化されたオリジナル商品には斬新なアイデア、技術が凝縮されている。例えば、2005年に開発された多用途加熱保温湯沸しヒーター『沸かし太郎』。10年経っても衰えぬ人気が優れた性能を裏付ける。

人気衰えぬ便利な『沸かし太郎』
センサー搭載で安全性を担保


「『沸かし太郎』は、1995年の最初の発明から始まる加熱装置の技術開発の成果といっていい製品です。業界最大級910Wの強力ヒーターを採用していて、衝撃や腐食に強いステンレスカートリッジヒーターを使用し、容器の形状を問わず、底に沈めるだけで簡単に水からの湯沸かしや保温ができます。IC温度コントロールにより30℃~45℃の範囲で温度制御幅プラス、マイナス0.3℃と高精度での制御が可能で、10ℓのお水が10分間で約10℃上昇します。水位の異常を感知する水位センサー、異常温度上昇を防止する温度センサー、ヒーターの異常過熱を防ぐ温度ヒューズ、過電流を防止する電流ヒューズ、漏電を防止するコントローラー一体型漏電ブレーカー、抗菌、消臭効果を持続できる無光触媒セラミックコート処理の安全カバーを搭載するなど、機能性、安全性を徹底的に追求した技術が施されています。電気代も一日約96円程度で経済性にも優れ、いろいろな湯沸し用途に使えるので常備しておくことで災害対策になります」
 社長が発明し、2011年5月に公開された特許「手袋」や2014年6月の「外套」は、ヒーターを配設した防寒用品開発の技術力を示すものだ。簡略化して言えば、外套の襟部や手袋の指部分に電熱線を発熱媒体としたヒーターを配設する構造だが、安全性と機能を両立させるためには専門的な電気技術と構造上の工夫、素材の選択が求められる。その技術をベースに開発されたのがヒーター付きの「ベスト」や「ブルゾン」「ヒーター内蔵あったかパンツ」「ヒーター内蔵あったかルームシューズ」「おててのこたつ」「あんよのこたつ」などの製品だ。

ヒーター内蔵の防寒用品多種
夏向き通年製品の開発に意欲


「『ヒーター付きベスト』は、秋冬向きに開発された人気商品です。アウトドアスポーツや旅行、様々な野外活動、屋外での作業、介護などで愛用者が増えています。抜群の即暖効果があり、遠赤外線効果によってわずか10秒で首から背中、腰、全身が暖かさに包み込まれます。ヒーターには繊維状のしなやかなマイクロカーボンファイバーヒーターを使用し、装着時の違和感をなくしました。バッテリー駆動で余計な配線がないコードレス仕様ですので、取り扱いがとても簡単です。両サイドには伸縮性のある素材を採用し、様々なサイズにフィットするようにしました。他の商品も利用者や利用する環境や場所、必要性を想定して生み出したもので、ニーズに応える性能、構造、安全性、着装感などの特長が人気を支えているのだと思っています」
 1965年創業の同社は、電気接点材料の製造販売に始まり、自社ブランドの観賞魚用サーモスタット・ヒーター、浴槽浄化・保温器などへと商品開発のウイングを広げてきた。熊谷さんは大学の電気電子工学科で学び、卒業後、日立製作所に入社、編集機器のソフトや写植など印刷技術の開発に取り組んだエンジニア。父親が経営する『クマガイ電工』に移って業務全般を掌握、経営ノウハウも学んで経営を引き継ぎ、豊富な経験と知見で会社を牽引してきた。
「今後は温めるから冷やすへと発想を逆転させ、夏向きや通年製品の開発にも挑戦し、新たな市場を開拓していきたいと思っています」
 イノベーションに情熱を傾けるエンジニアの顔がここにはある。
(ライター/斎藤紘)

クマガイ電工 株式会社
TEL:072-992-6611 FAX:072-993-7772 Eメール:info@kumagai-dk.jp
ホームページ http://www.kumagai-dk.jp/

エクスプレス・タックス 株式会社
代表取締役・税理士 廣田龍介氏

福島県出身。製菓会社、税理士事務所勤務を経て、1985年、税理士登録。税理士法人タクトコンサルティング勤務を経て2011年、『エクスプレス・タックス』代表取締役に就任。相続相談件数約2000件、実施件数約 200 件の実績がある。2013年、「相続財産を3代先まで残す方法」(幻冬舎)、2015年、「新・相続税は「自宅対策」から始める(KADOKAWA)を出版。

多角的な視点で事業継承支援
税理士歴30年の経験を生かす

 中小企業経営者の高齢化に伴う事業継承問題が、日本経済の先行きの懸念材料にじわじわと浮上してきた。2015年、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が改正され、事業継承を難しくしていた制度を改めたり、中小企業庁が都道府県に事業引継ぎ支援センターを設けたりしているのはその表れだ。『エクスプレス・タックス』の代表取締役廣田龍介さんは、時代の流れを見据え、事業継承問題に直面している中小企業と向き合い、税理士歴30年の経験と深く広い知見、多角的な視点から組み立てられたノウハウを動員して問題解決の道筋を示してきた。その実力を頼って中小企業関係者からの相談が後を絶たない。
「中小企業では経営者が高齢化し、積極的な経営ができなくなって企業活力が低下してしまう例は少なくありません。半面、親族内での後継者の確保が困難になっていて、事業継承が進まないという問題に直面しています。中小企業の廃業の原因は経営者の高齢化と後継者問題が多くを占めており、日本の経済基盤を支える中小企業の雇用や技術を喪失しないように事業承継の円滑化が急務になっているのです」
ひとことで事業承継といっても、それに関わる課題は多岐にわたる。
「事業承継には経営の承継と資本、財産の承継の2つのポイントがあります。経営の承継とは、役員、従業員、設備、ノウハウ、取引関係先などの経営資源の承継、並びに市場経済の予測や経営リスクに対する対策の強化、人材育成など経営全般に関する承継が含まれます。資本、財産の承継とは会社の支配権を象徴する株式の承継ということになります。後継者を親族内、会社内の役員、従業員から選ぶ方法と、同業者や取引先関係などからの登用や株式を別会社に移転するM&A、つまり企業の合併や買収による承継など社外に協力を求める方法があります。その中から最善の解決策を模索していくことになります」
 後継者選びと並んで問題を複雑にするのが相続問題だ。
「中小企業の事業承継は個人的色彩が強い分、相続問題が大きく作用することになります。後継者がいるかどうか、財産の分け方、相続税額はどのくらい出るのか、その納税資金はどうやって準備するのかなど課題は多岐にわたります。特に、後継者の育成が不完全の場合、役員、従業員、取引先関係の評価がその後の営業に影響が出てくることになりますし、個人財産と法人財産が混在している場合も多く見受けられます。中小企業経営者の相続財産に占める事業用資産の割合は60%~70%で、そのうちの約半分は自社株といわれております。そのため相続税の納税資金は法人で捻出することが出来るようにすることも大切な対策となります」
廣田さんは、資本承継と自社株対策でも注意を促す。
「資本承継をするためには後継者に株式を移転しなければなりません。株式の移転方法としては生前対策として贈与、売買の方法、ないし相続時に相続財産として移転する方法があります。第一にすべきことは株価算定ということになります。株式を移動するときの基礎となります。また、株主構成を把握することが必要です。株主名簿に記載されている株主が名義株の場合がありますので議決権に影響が出てきます。また、過去の株式の移動状況についても定款や議事録の確認チェックをしておく必要があります。贈与・売買等の移動が無効になる可能性がありますので注意を要します」
さらに会社の財産、債務について精査の必要性を強調する。
「会社の財産、債務の精査は不良資産の整理や権利調整に役立ちます。不良在庫や回収不能の債権などは早めに整理をしておく必要がありますし、社長借入金や社長貸付金なども整理しておく必要があります。特に社長借入金は社長から法人への貸付金債権となりますから相続財産の対象となります。会社の資本として財務内容を充実させるか債務免除をして財務内容を強化するなどの対応が必要になります」
 資産税、相続税を軸に税務に関する多様な相談に取り組み、不動産コンサルティング分野でも活躍してきた廣田さん。事業継承問題でも組織内容の把握、株価評価も含めた多角的で的確な支援が厚い信頼を支えてきた源泉だ。
「後継者育成や選定、株式移転は早期対策の中に織り込み、経営計画や経済変動の動きに応じて時間をかけて対応することが、無理のない事業承継対策と云えるでしょう。早めの対策が大事なのです」
(ライター/斎藤紘)

エクスプレス・タックス 株式会社
廣田龍介税理士事務所
TEL:03-3595-8221 FAX:03-3595-8222

AOIA 株式会社
代表取締役 中田裕氏

富山県出身。一橋大学商学部卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。2002年、CSFB(現クレディスイス)証券入社。エマージング(新興)市場のスペシャリストとして活躍。2007年、独立系投資顧問会社インベストメントアドバンザーを経て、2010年、『AOIA』設立。2011年、「AOIAアカデミー」(現グローバル資産形成学院)開講。

市場感覚と当事者意識を涵養
講座著書で資産形成法を伝授

「銀行員や証券マンの言いなりになるな!~元銀行・証券マンが教える、会社の資産を自衛する方法~」。刺激的なタイトルの本の著者、『AOIA(エイオーアイエイ)』の社長中田裕さんは、銀行、証券会社の経験を生かして資産形成の要諦を伝授する「グローバル資産形成学院」の学長兼講師として受講生を指南し、合間に全国を講演で飛び回る、まさに、視界不透明な金融証券の海に屹立する灯台のような存在だ。
「これからの時代は、年金も自分で運用することが当たり前になります。確定拠出型年金の導入、NISA少額投資非課税制度の登場によって金融商品が身近なものになりつつあります。個人や経営者が資産を自衛する方法を知ることは極めて重要です。その入門書として読んでいただければ、最低限知っておくべき要点がつかめると思います」
 日本銀行による異次元の金融緩和に始まったアベノミクス。円安や株高によって大企業や富裕層が潤い、有効求人倍率が高まり、失業率が下がり、倒産件数が減るといった明るい指標がある一方で、原油価格の下落、中国経済の減速、新興国の失速など世界の経済環境の悪化が日本経済の足を引っ張るおそれも指摘される。2016年の日本経済は経済アナリストの間でも見通しが分かれる岐路にある。こうした状況下で個人投資家やトレーダー志望者に、迷路に入らない確かな視点と着実に道を進むノウハウを教示してきたのが中田さんだ。
「欧米では学校教育の場でお金について学ぶ場がありますが、日本の学校教育ではそういった機会が少なく、株価や為替に興味のある人が少ないのが実情です。そのため、個人が銀行や証券会社で金融商品を購入する際にも、なかなか自分で判断できず、人任せにしてしまう傾向が高く、結果としてうまくいかずに手を出さなくなってしまうのです。今の日本経済は先行きも不透明で、日本の借金も1000兆円となり、もはや国を当てにすることはできません。自らがお金について学ぶことで、将来に対して備えていく必要があるのです」
 そうした日本の事情を考慮して一般的な日本人をモデル化して中田さんが開発し、「グローバル資産形成学院」で活用しているのが「投資体験ゲームセミナー・フォーチュンマップFortune Map」。中小企業会社員や公務員といった10種類のプレイヤーからひとつを選び、25~30歳という年齢から開始し、15~25年で設定したゴールを達成することを目標に、3種類のカードのいずれかを引きながらゲームを進める。世界で起きる様々なニュースが書かれたニュースカードもあり、その事象で上下する世界の金融市場と自分が保有する資産価値の動向を見極めながら、資産の購入、売却を判断する能力を養う仕組みだ。
「1ヶ月や1年といった短期での資産の上がり下がりに一喜一憂するのは資産形成の本質を表してはいません。Fortune Mapは15~25年という長期の期間の資産形成をシミュレーションすることによって、時間を味方につける方法を学びます。ニュースから経済の動向の先を読み、的確に投資・資産形成をしていくことの重要さが認識できます。一般的な日本人をベースに作られていますので、長期視点で経済と資産形成を考えるのに適したツールであり、自分自身を振り返り、今後の人生を考えるのにきっと役立つと思います」
 同学院は、本やネットのニュースでは得られない資産に対する考え方が学べる「はじめての資産運用~入門講座」からプロのトレーダーとして実践していくために必要なポイントが理解できる「FXレード実践講座上級編」まで多種多様なニーズに対応した講座を設けている。
 三和銀行からCSFB(現クレディスイス)証券に移ってエマージング(新興)市場のスペシャリストとして機関投資家や証券会社を担当、新興国債券ファンドブームの立役者の一人になり、その後、独立系投資顧問会社でインベストメントアドバンザーを務めた中田さんが「グローバル資産形成学院」で目指すゴールは明確だ。
「金融市場の拡大縮小サイクルを実地体験する中で、日本の個人投資家に欠けているものに気付きました。市場感覚と当事者意識です。これを念頭に当学院ではお金と経済のリテラシーを高め、人に頼らず、国に頼らず、自ら資産を形成し自衛していく力を付けることに主眼を置いています。経営工学の専門家や外国為替ディーラー、FXトレーダー、ファイナンシャルプランナーなど第一線で活躍している講師陣の実践に裏付けられた解説が受講生のモチベーションを高めています」
(ライター/斎藤紘)

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医療法人社団康樹会 
海岸歯科室 理事長 森本哲郎氏

東京・浅草出身。歯科医の家庭に生まれ、患者と父親の繋がりをみて育つ。東京歯科大学卒業後、東京歯科大学の水道橋病院の歯科総合科に入局。歯科全般を学ぶ。平成3年に『海岸歯科室』を開業。平成26年に『KAIGAN DENTAL OFFICE こどもの歯医者さん』開業。

予防歯科とQOLの維持・向上
これからの歯科医療に求められること

 甘い物を食べると虫歯になる。子どもの頃から何度となく指摘され、大半の方が実際に歯医者さんのお世話になった経験をお持ちではないだろうか。ではなぜ甘い物を食べると虫歯になるのか。どうすれば虫歯や歯周病を防げるのか。また口腔内の健康と身体全体の健康はどのように結びついているのかなどを、千葉市美浜区の『海岸歯科室』の院長である森本哲郎先生に伺った。『海岸歯科室』は、1991年の開院以来25年にわたり、一般歯科や小児歯科、歯周病治療、審美歯科、矯正歯科や予防歯科などのほか、認知症や呼吸器疾患、神経疾患などにより近隣の歯科医院への通院が難しい患者様のお宅へ訪問し、虫歯・歯周病治療や義歯の作製・修理を行う訪問診療を行っており、地域の方々一人でも多くの口腔の健康を守ることに尽力している。
「虫歯は、酸によって歯が溶かされる歯の病気のことです。初期虫歯であれば、再石灰化といって虫歯が治ることもありますが、進行してしまった虫歯は自然に治ることはありません。毎日の食事や間食の中に虫歯になるリスクが少なからず潜んでいます。虫歯の原因となるのは『ミュータンス菌』という細菌です。
 この細菌は、口の中に砂糖が入ってくると、活発に働いて歯垢を作ります。そして、食べ物の中に含まれる糖質、特に砂糖を代謝し、歯垢の内部で酸を作ります。この酸が歯の成分であるカルシウムやリンを溶かし、虫歯を発症させるのです。間食が多い人や、キャンディーやドリンクなどの甘いものを頻繁にとる習慣のある人は、歯の表面が酸にさらされる時間が長くなるため、虫歯になりやすくなります。虫歯にとって最も危険な食べ物は、甘くて、口の中に残るものです。
 しかし、食べ物を食べてから、ミュータンス菌が口の中で活動し、糖から酸がつくられるまで、少し時間がかかります。また食後は唾液成分により酸が中和されるので、2〜30分後にブラッシングなどできちんとケアをすることで虫歯を予防することはできます。
 また甘味料に砂糖の代わりに『キシリトール』を使った製品で虫歯の発生を抑えることができます。キシリトールは、自然界に存在する五炭糖の糖アルコールで、多くの果実や野菜の中に含まれている天然甘味料と同じです。ミュータンス菌は砂糖と同様にキシリトールを取り込みますが、酸を作ることができません。酸ができないので歯を溶かすことができなくなります。さらにミュータンス菌は酸を出せないと死んでしまいます。現在キシリトールの効果が期待できる商品は、ガムかタブレット(錠菓)に限られています。これはキシリトールが吸湿性が高く、空気中の水分を吸ってベトベトになってしまい、砂糖の代わりに使うのが難しいことと、ガムやタブレットだとキシリトールが口の中に長く留まることができるからです。
 このように虫歯の発生を抑制するキシリトールは、フィンランドが発祥です。キシリトールですっかり有名になったフィンランドですが、かつては世界有数の虫歯大国だったことはあまり知られていません。1972年より、虫歯治療にかかる膨大な医療費をなんとかしようと、国をあげて虫歯予防に取り組みました。口腔衛生指導や食事指導、フッ素塗布、そしてキシリトールガムが導入され、虫歯の数が劇的に減少したのです。日本もこれら北欧の予防歯科先進国を見習う必要があります。残念ながら日本ではまだ予防歯科という概念が定着していません。虫歯、歯周病は本当に予防できることを患者さんに実感していただくための方法やシステム、私たちの努力が必要なのだと思います。
 また、歯医者は口の中だけを診ていればよいという時代は終わりました。例えば、歯科の治療の前に血糖値を計ります。すると糖尿病であることがわかる。糖尿病と口腔内の健康は因果関係があり、糖尿病が悪化すると歯周病も悪化する。また歯周病が良くなると糖尿病も良くなることがあります。このように身体全体の健康を維持するために、いかに口腔内の健康を維持していくか。歯の状態が悪いと全身に影響が出てくる。ますます口腔内の健康維持が重要になってきます。ひいてはQOLの維持・向上に重要な役割を果たすことになります。
 これからの日本の歯科医療の課題は、虫歯を治し、また悪くなったら治すという対症療法的治療から脱却し、口腔内の健康維持から他の科目の先生と連携しながら全身医療へと拡げていく、これがこれからのテーマだと思っています」。
(ライター/後藤宏幸)

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