プロフェッショナル
基礎工事の匠が専門的視点から警鐘
転圧不足盛土も問題視
地震や豪雨による土砂崩れや河川の氾濫などの自然災害が毎年のように繰り返される中、高低差のある土地を支えるために重要な役割を果たす擁壁が崩れる危険性にも目を向ける必要があると指摘するのが、基礎工事のスペシャリストで擁壁構築や外構整備なども手掛ける『有限会社信和土建』の代表取締役宍戸信照さんだ。その関連で土砂災害の原因になる転圧不足の盛土(もりど)も問題視する。擁壁や盛土について宍戸さんにお話を伺った。
―擁壁崩落の危険性に注意を促していますが。
「2016年の熊本大地震で建築基準法や宅地造成等規制法に適合していない擁壁の崩落が大きな問題になりましたし、2020年には神奈川県逗子市のマンション敷地の斜面の擁壁が崩れ、女子生徒が死亡しました。2021年6月には大阪市西成区の住宅地で擁壁が崩壊し、4戸の住宅が崖下へ次々に崩落する事故もあり、古くなった擁壁は地震や豪雨で崩れる可能性が増え、人命や財産に重大な影響を及ぼすことがありますので要注意です」
―崩落の原因は何が考えられますか。
「擁壁は、土を切り取った崖や斜面、盛り土、切り土を保持するための壁状の構造物のことをいいます。土の圧力や上に載る建物などの荷重、地震力、地盤の支持力、擁壁自体の重さなども考慮して設計しなければなりませんし、水抜き溝や水抜き孔を設ける必要もあります。擁壁の設置に関する技術的な基準として、宅地造成等規制法施行令では、鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造または間知石(けんちいし)練積み造(ねりづみ)その他の練積み造のものとすることと定められています。また、地盤が軟弱な丘陵地などでは、支持する鋼管杭を擁壁の下に打設する必要があります。コンクリートでしっかり固められ、鋼管杭で支えられた擁壁やたて壁と底版によって構成され、背面の土の圧力を支えるL型擁壁は滅多に崩れることがありませんが、鋼管杭がない擁壁や、安全上の構造計算が難しい直径20㎝前後の丸っこい自然石の玉石造り、経年によって風化してゆく大谷石造りの擁壁、図面通り造られても検査を受けていないような昔に造られた古い擁壁では、地震などでできた亀裂から雨水などが擁壁上部に流れ込み、裏込め土が流失して空洞化し、崩落するケースが多いと考えられています」
―どのように注意すればいいのですか。
「排水溝が壊れていたり、ズレがないか、排水溝の中に土砂が溜まっていないか、水抜き孔があるか、その孔に草や土等が詰まっていないか、擁壁自体が膨らんだり傾いたりしていないか、間知石練積み造りの場合は目地が開いたり、一部の石がせり出していないか、擁壁内部から茶色い錆び汁がしみ出ていないか、ひび割れが生じていないか、コンクリートが剥離して鉄筋が見えていないかなどの点をチェックすることが重要です」
―ご自身が施工して擁壁で苦労した例はありますか。
「高台にある住宅の建て替え工事の基礎工事を請け負ったケースでは、鋼管杭がない擁壁で許可が下りないため、擁壁に手を加えなくてはなりませんでした。道路にベースコンクリートを打って鋼管杭を立てることはできませんので、家を後ろにずらして新たにベースコンクリートと鋼管杭で擁壁を補強しました。杭打ちは専門の業者が行いますが、これなどは擁壁で苦労した例でしょう。大規模な宅地の場合は、建設業者が法律に則って擁壁も構築するので、基礎工事を簡単に始められますが、場所によっては擁壁造りと基礎工事を並行して行わなければならないケースもあります。また、地価の高騰で立地条件の悪い場所や古い擁壁の上に家を建て、敷地の安全性の確保が重要になるケースも増えているように思います。擁壁を壊して新たに造り直すと多額の費用が発生しますので、補強という形にせざるを得ないのが実状です」
―擁壁を構築するときの盛土についても問題視していますね。
「盛土は、しっかり固めないと擁壁の強度に影響します。30㎝積み上げたら転圧しなければならない決まりで、当社は土を締め固める機械のタンパーで決まり通り転圧で固めていきます。基礎工事で掘った土を処分場に運んで処分する場合も同じです。工事とは関係ありませんが、熱海の伊豆山で盛り土が崩れて土石流が発生し、26人が犠牲になりましたが、あれは土を捨てただけで転圧していないために起きたと考えられます。また、森林の間伐材伐採のための道路を造っても転圧していないために土砂崩れを起こした例も報告されています。転圧は災害を防止する上で重要な作業なのです」
◇
建物の土台を形成する基礎工事で30年超の経験を重ねる宍戸さんは、住宅検査専門会社が優れた建築職人を顕彰する制度で、基礎全体に規定の厚さで敷き込んだ砕石を機械を使って踏み固める初期の工程の転圧とコンクリート土台に組み込む鉄筋を配置する工程の配筋で示した仕事ぶりが最高レベルの三ツ星と評価され、マイスターの称号を授与され、さらに全国工務店グランプリでも優れた職人に贈られる「匠の盾」も受賞した。
その妥協を許さぬ厳密な仕事ぶりで声価を高め、高台に建つログハウスの裏側傾斜地の土留めと階段設置、古い建物百選に選ばれた酒造会社の屋根修復工事の足場工事、花卉農家のビニールハウス拡大に伴う50mの擁壁構築、材木センターの土間工事、幼稚園の外構整備など基礎工事以外の工事依頼も後を絶たない。
(ライター/斎藤紘)
火災保険利用の支援スキームを構築
調査や申請支援も無料
「災害で傷んだところは家のケガです。人を守る、人の住む家はちゃんと治しましょう」
こう呼びかけているのが、一級建築士を擁して建築業を主軸に建築コンサルティング業、建築資材卸売業、電気工事業、電気通信業、不動産業、IT人材派遣業、保険事業などを多角的展開する『株式会社ファミールホールディングス』の代表取締役兼CEO・CFO小林淳さんだ。火災だけでなく、自然災害による家屋や家財の被害を補償する火災保険を利用し、治すための「手持ちの資金は一切不要。事前の調査も無料」という修繕支援スキームも構築した。
このスキームを構築した小林さんの意図はわかりやすい。
「マイホームは、一生で一番高い買い物です。せっかく手に入れたマイホームも築15年以上も経てば、放っておくと屋根を中心に、雨漏りが原因で、建替え工事を余儀なくされることもあります。延べ面積30坪程度の一戸建ての屋根の葺替え費用は、200万円から300万円もかかるといわれています。でも実は普段から傷みが小さい内に直すことができれば、お家は100年でも持つものだったのです。それは人の虫歯に似ています。歯の一部が黒ずんできたり、少し痛みが感じれば虫歯が進行しているというサインです。それを放置すると、抜歯が必要となったり、最近ではインプラントで一本30万円~ 50万円くらいかかってしまうのとそっくりですね。日頃から虫歯にならない様にこまめに歯を暦き、定期的に歯医者さんに見てもらえたら、歯も100年でも持つのと全く同じです。しかし、それがわかっていても先立つ費用が無ければ家のメンテナンスはできません。しかし、火災保険を利用すれば、手持ち資金がなくても治すことができるのです」
その火災保険、火災による被害でしか保険金が下りないと思っている人が少なくないと小林さんはいい、自然災害による家屋や家財の被害も補償する火災保険の機能についても解説する。
「損害保険の一つである火災保険は、名称に火災とついていますが、災害保険の性格も持っているのです。補償対象が火災のほか、落雷や爆発、風、ひょう、雪災による損害に限定した住宅火災保険や普通火災保険、こうした損害以外に外部からの物体の落下や衝突、給排水設備事故による水濡れ、騒擾、盗難、水災による損害も補償対象とした住宅総合保険などがあり、補償される被害の種類は保険商品によって異なりますが、火災保険を修繕に使える範囲は非常に広いのです」
補償される家屋や家財の被害の具体例として小林さんが挙げるのは次のようなものだ。台風・竜巻などの風災等による被害では、「強風で屋根瓦が破損した」「強風で飛んできたもので家の壁が破損した」「窓ガラスが割れて、風雨が入り、家電製品が壊れてしまった」など。雪災・ひょう災による損害では、「ひょうによって屋根瓦が割れた」「雪崩により建物の外壁が破損し、室内に流れ込んだ雪で家財が破損した」など。落雷による損害では、「雷が屋根に落ちて瓦が吹き飛び、屋根に穴が開いてしまった」など。洪水・集中豪雨・土砂崩れによる損害では、「河川の氾濫による床上浸水の被害にあった」など。
「強風でスレート屋根材のカラーベストが割れたり、ヒビが入ったり、棟板金の釘が取れかかったり、瓦がズレたり、丈夫な門扉が曲がったり、奇麗なフェンスにキズ凹みができたり、といったケースでも補償の対象になる可能性があります」
火災保険を利用した修繕支援スキームは、被害の事前確認から調査、申請書類の提出、修繕工事までをカバーし、周到で重層的だ。
事前に被災状況や火災保険証券の確認とヒアリングを電話やSNSで確認し、担当者の初回訪問日を決める。初回訪問時に担当者より修繕工事の注意項目を説明し確認してもらった上で承諾書に署名、押印をしてもらう。次に、同社の指定工務店の自然災害調査士が実際に屋根に上がったりして被災個所がないか調査、診断する。被災個所があった場合は加入の保険会社に連絡し、保険金請求書を取り寄せる。その間に同社は保険会社に提出する被災写真と見積書をー級建築士が確認し、作成し、保険金請求書、被災写真、見積書の三点を郵送で保険会社へ提出する。
数週間から二ヵ月ぐらい後に保険会社から鑑定人による現地立会い調査の結果に基づいて保険金決定通知の運絡が入れば、認定された保険金額と決定通知の内容に合わせて工事内容を説明する。この時、依頼主の要望も踏まえて打ち合わせし、工事内容を決定する。工事請負契約書に署名、押印してもらった後、請求書を送付し、認定された保険金を工事代金として同社へ振込期限までに振込み、工事請負締結内容の修繕工事に入る。完了後、完工写真付きの修繕工事完了報告書を送付する。
「これらすべてを完全無料で行います。無料調査の結果で被災なしや、保険申請の結果で否認された場合も完全無料です。ただし、保険金請求後のキャンセルはご遠慮願っています。保険金が見積もり金額を下回った場合でも不足金をご請求することはありません。雨漏り箇所の修繕は雨漏りを完全に止めることをお約束するものではありませんので、ご理解いただきたいと思います」
火災保険を利用した自然災害被害の修繕支援事業には、「お客様と共にある企業、社会貢献している企業という社是のもと、お客様や社会に貢献したい」「お客様が求めている通りのものを提供する」という小林さんの信念が投影されている。
(ライター/斎藤紘)
Eメール/kobayashi@famil.co.jp
https://famil.co.jp/
新しい価値を創造する環境づくり
コロナ禍でも続々出店
「組織、個人が抱える課題の本質を明確にし、新しい価値を創造する解決手法を提案する」
経営コンサルティング、運営危機サポート 起業支援アドバイス、人材マネジメント、ナイトレジャープロデュース、広告代理店業などを手掛ける『株式会社株式会社O.S.one』の代表取締役福岡航介さんが事業で貫く基本スタンスだ。2021年に大阪市でオープンしたエステティックサロンとイタリア料理店のコンセプトと空間構成を見れば、その実力が鮮明に伝わり、業種を問わず店舗開設を目指す人の格好のモデルとなる。
エステティックサロンは、阪急豊中駅から徒歩1分の大阪府豊中市末広町の駅チカにオープンした『サロン ド リフージョ(salon de rifugio)』。完全個室三室とエステティシャン三人の陣容で運営している。「これからの肌をキレイに」をモットーに、豊富な機器や商材を揃え、肌質に合わせたケアを行う。
「エステティックサロンを開設するにあたって、エステティシャンでもありセラピストでもあるスタッフの経験に基づいた意見と希望をしっかり聞き取り、全体像を考えました。エステティックサロンの性格上、女性にとって心と体に溜まった疲れを癒す憩いの場でありたいとのコンセプトの下、受付から廊下、施術ルームまで店内内装をこだわり貫きました。施術ルームは心安らぐひとときを提供させて頂くために完全個室とし、ゆったりとご利用頂ける清潔に完備されたシャワールームも完備しました。軽く汗を流して頂くことによって、アロマオイル本来の香りが楽しめるようにとのエステティシャンの意見を取り入れたものです」
施術メニューは小顔矯正、フェイシャルリフトアップ、脱毛、毛穴洗浄、エイジング特有のシワやたるみ、ホウレイ線の改善、オイルマッサージなど多岐にわたり、女性一人ひとりの状態に合わせて的確な施術を行う。リフトアップには、高密度の超音波エネルギーを使う美容機器ハイフを用いるが、同店では、最新機器のハイフとマッサージを併用することで、他のサロンと比べても効果と持続力が格段にアップするという。また、同サロンの看板メニューとして、高圧のエアーとラジオ波で肌の内側にアプローチし、肌の深部まで美容成分を浸透させて肌の土台を整える水光エアジェットも採用した。土日も営業する。
イタリア料理店は、近鉄けいはんな線新石切駅から徒歩3分の大阪府東大阪市西石切町のマンション一階にオープンした『クッチーナ イタリアーナ ラルゴ(RCucina Italiana LARGO)』。調理師学校卒業後、様々なホテルで調理を担当し、その後、イタリアでの修行も経験したというシェフの坂本卓也さんと綿密に計画を練ったという。
「旬の食材をふんだんに使った本格的イタリア料理を目指し、肉、野菜、魚など、その季節でもっとも旬な食材を選び、シェフの経験と腕を最大限生かした料理をご提供するというのが基本的なコンセプト。雰囲気にもこだわり、エントランスの扉を開くと、都会の喧噪を忘れてしまうような静かな空間が広がり、南イタリアを思わせる色あいに包まれた空間が非日常へと導くような雰囲気になっています。また、お客様に食事を楽しんでいただくためにホスピタリティあふれる心のこもった接客サービスにもこだわっています。洗練された接客サービスもまた、おいしさの一部であり、お客様にお喜びいただくための大切な要素だと考えたからです」
メニューも豊富で、備長炭を使ったスモーク料理も自慢だ。
福岡さんは30歳で飲食店を出店し、半年も経たぬうちに5店舗まで拡大、多いときには18店舗もの経営に携わった経験を持つ。経営コンサルタントへの転進は、「自分がすべて指示してしまっては店長やスタッフたちの成長につながらない。各店舗の経営は店長に任せて自分は一歩退き、みんなが楽しく働ける職場づくりをサポートしよう」と考えたのがきっかけになったという。
「飲食店からのご相談に対しては、お客様は多くの同業者の中から私を選び、頼ってくださっているわけですから、何としても結果を出すという強い気持ちで臨んでいます。同時に一緒に楽しく仕事をするということです。まず自分たちが楽しんで取り組む必要があります。最終的には、お客様と私が友達のような親しい間柄となってお付き合いできるのが理想だと考えています」
この姿勢が評価され、飲食業界以外にも中小企業や小規模事業所、商店などからのコンサルティングの依頼が後を絶たない。
福岡さんは、熊本に新しく歯のセルフホワイトニングのお店「ホワイトニングサロンsanchez 熊本店」を2021年夏にオープンした。歯に薬剤を塗って専用機械で照射して歯を白くしていくもので、お店のInstagramを見て来る若いお客様が多いという。一度行うと「何トーンか白くなった」と結果がすぐわかることから、それが口コミで広がり、集客につながっている。今は美意識の高い男性も多くなり、お客様は男女共に多く、機械も二台置いてるので、友だちと一緒に来店する方も多い。
「店舗開設で一番大事なのは、新しい価値を創造する意思を示すために、お店の個性や強みを前面に出すことと、働きやすい環境、楽しい雰囲気をつくることだと思っています。エステティックサロンとイタリア料理店はこの考えを具体化した好例です」
(ライター/斎藤紘)
Eメール/k.o.s.one@sweet.ocn.jp
https://os-one.net/
邁進するITコンシェルジュ
行政や企業をサポート
『ITコンシェルジュ』としてITコンサルタントを行う企業、それが『合同会社rapport』。「人に尽くす、会社に尽くす、社会に尽くす」をモットーに、ITを中心とした経営コンサルティングや地方創生を絡めたDX(デジタルトランスフォーメーション)推進事業などに取り組んでいる。コンシェルジュとは、フランス語で門番や守衛などを意味し、ホテルにおいては、お客様の要望のほぼすべてに応え、様々な代行や手配、案内などを行う人を指す。同社はまさにITで困った時の頼れるコンシェルジュとして、あらゆる相談に対応し、適切なアドバイスやサポートを行っている。しかも『ITコンシェルジュ』は、単にIT技術に通じているだけでは務まらない。クライアントから丁寧にヒアリングを行い、業務を把握・分析したうえで、経営戦略に沿って課題解決のための提案をする必要があるのだ。
そんなコンサルティング能力に長けているのも、代表の岩本高佳さんの経験があればこそ。岩本さんは、20歳からIT業界に携わり、多種多様な業務を手がけてきた。複数の企業で部長職や取締役なども歴任し、経営側の視点も身につけている。また、中央官庁・独立行政法人・地方自治体の執行役員としてITコンサルティング業務にも携わり、地方創生への思いも育ててきた。これらの経験から、企業・省庁の悩みや希望に的確に応えることができているのだ。
同社が力を注ぐ地方創生を絡めたDXの推進も、岩本さんの思いが反映している。地方創生という考え方は、そもそも平成26年に生まれた「まち・ひと・しごと創生法」に端を発する。人口減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度な集中を是正し、各地域に住みよい環境を確保することを目標とする。その流れから、令和2年、DX(デジタルトランスフォーメーション=テクノロジーで人々の暮らしを豊かに変えようという考え)により地方創生を推進する方針が閣議決定されている。コロナを機に多くの人がテレワークを経験した今、リモート環境が企業にも働き手にも重要なポイントになってきた。企業はテレワーク制度適用の範囲を拡大し、地方への機能移転も推進。地方にいながら都心と同じやりがいある仕事に従事することが可能になりつつある。それにつれ、若い世代の地方への移住も活発化している。
岩本さんは、その主役となる地方自治体や企業を支援するとともに、地方創生を推進する中央官庁とシステム構築の仕事で協働。具体的には、役所に足を運ぶことなく、住民票が取得できたり移転手続きができるなど、暮らしの利便性を高めるサービスなどだ。マイナンバーのさらなる活用システムや、自治体クラウド化共同利用、システム標準化など、様々な支援事業にも力を注ぐ。
リモート授業などのオンライン学習が急速に普及する教育現場の環境整備にも携わっている。そもそも文部科学省では、令和元年に「GIGAスクール構想」を打ち出していたが、その構想がコロナ禍により前倒しとなった今、同社では、教育現場のICT化をハード面からサポート。オンライン学習に適した学習用端末機器の選択から、校内LAN構築まで、きめ細かに対応している。
さらに、病院や工場に対しても「One Medical×One rapport」「One Factory ×One rapport」などを掲げ、ITで包括的にサポート。病院を例にとれば、保険証としてのマイナンバーカード利用への対応から、電子カルテや医事会計のシステム、電子決済、さらにデジタル人材育成など、病院を取り巻く業務をトータルに合理化するためのシステムを構築。こうした業務も、地方創生の一つの支援の形として重視している。
同社のもう一つの事業が、マインドフルネスコンサルティング(社員教育および育成、退職抑制)の基礎講座。社員育成セミナーではコミュニケーションの「見える」化など、「見える」化シリーズを強化。効果がすぐにあらわれると好評である。
『rapport』とは、仲間と信頼関係を結ぶという意味の言葉。クライアントも仲間として、人と人、人と会社、会社と会社を結ぶかけはしの役割を果たす同社の活躍によって、これからの社会が、より生きやすくなるかもしれない。
(ライター/ナガノリョウ)
Eメール/takayoshi_iwamoto@rapport-llc.jp
https://www.rapport-llc.jp/
時代の要請に応える事業活動展開
バスを災害避難に活用
「可能な範囲で対応して、助かる命を一人でも多く救っていきたい」
群馬県大泉町を拠点にバス事業を展開する『株式会社スター交通』の代表取締役社長碓氷浩敬さんが、民間救急を主力事業に据えた動機だ。コロナ禍の中、消防署の救急車をベースに作り上げた民間救急用車両で感染者を医療機関に送り届ける活動を進めるだけでなく、災害時にバスを避難場所として活用するアイデアを具体化するなど社会貢献度の高い活動に積極的に取り組む姿勢から、その熱意が鮮明に伝わる。
民間救急は、道路運送法に基づく地方運輸局長による一般旅客自動車運送事業の許可と所轄消防署による患者等搬送事業所の認定を受け、緊急性のない傷病者を対象に転院や退院、通院時に搬送してサポートする事業。
碓氷さんが民間救急事業をスタートさせたのは、東日本大震災が起きた2011年に遡るが、その活躍ぶりを強く印象付けたのが、2020年2月、世界57カ国の乗客船員約3700人を乗せ、横浜港に寄港した大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の船内で新型コロナウイルス感染の大規模クラスターが発生した際、何台もの救急車に混じって、防護服を着た乗務員が運転する一台の大型バスで感染者712人の1割以上を搬送したことだ。
「クルーズ船での感染は報道で知っていましたが、まさか感染者搬送を担うことになるとは思ってもいませんでした。協力要請は、当社が加盟する全民救患者搬送協会を経由して神奈川県からありました。厚労省は感染者を医療機関に入院させる方針でしたが、救急車一台で運べるのは感染者一人。そこでバスでの搬送を考えたものの、引き受けるバス会社が見つからず、民間救急搬送を手掛ける当社に白羽の矢が立ったのです。ホテルの送迎や観光ツアーなどの事業に風評被害が出る恐れがあることや営業区域外の依頼だったこともあり、受けるべきか否か正直迷いましたが、これまで取り組んできたことを振り返り、最終的に、困っている状況を目の前にしながら行動しないのは信念に反するという思いが勝り、夜幹部を集めて対応を協議し、翌朝バスを横浜に派遣しました」
搬送には二人のスタッフが対応したほか、多くの社員が後方から業務を支援。バスでは運転席と客席の間をビニールで仕切り、防護服を着用して運転、座席間隔を離し、乗降の度に車内を消毒した。搬送途中トイレのために下車することもできず、大人用おむつを履いたという。こうした対策を取りながら、バスは中部地方や近畿地方の病院を巡り、80人以上を搬送した。
この経験を契機に、碓氷さんはコロナ禍への対応で苦慮する救急医療を支援する活動に積極的に乗り出した。2021年3月には、宮城県仙台市で一日当たりのコロナ感染者が100人以上になったことを報道で知るや、碓氷さんはすぐさま仙台市に向かい、市役所や宮城県庁で救急体制の現状などを聞き取り調査。患者搬送の請負契約を市と締結し、3日後には搬送スタッフと看護師の2人を派遣した。
また、群馬県、埼玉県、東京都の首都圏を中心に各地でコロナ感染者の搬送に取り組み、その数は月間数百人規模にのぼる。さらに、海外からの帰国者を空港から自宅へ送る帰宅専用車業務や海外から戻った貨物船の船員が交代するときの転船業務でも頼りにされる。
碓氷さんは、2002年に旅行代理店業を行う『株式会社ワールドツアーズ』を設立し、その9年後の2011年に貸切バス事業を行う『スター交通』を立ち上げた。その事業の準備を進めている最中に東日本大震災が発生し、貸切バス事業の開始を延期せざるを得なくなった。この状況下で会社経営を維持するための新たな事業を模索し、辿り着いたのが民間救急事業だ。
「最初は福祉タクシーなどを考えましたが、必要な資格を持っていれば民間でも患者搬送が可能なことがわかり、民間救急を事業に加えることにしたのです。私も含め従業員みんなで必要な資格取得をとるために専門学校に通い、消防救急と同じ設備や常勤の看護師やヘルパーなどの採用も進め、民間救急事業をスタートさせました。また、この事業を始めて5年目の時期に、アフリカでエボラ出血熱が大流行し、日本でも感染症対策を各地方自治体レベルで取り組む流れがありました。民間救急事業を行っているということで、当社も群馬県の保健予防課から協力要請があり、そこで専門家の方々に感染症対策のノウハウを教えていただき、感染症に対応できる体制ができたのです」
現在、同社は民間救急用車両4台と車いす対応の福祉車両3台で事業に取り組んでいる。民間救急用車両は、乗務員や看護師が2〜3人、患者1人、家族や関係者1〜2人が乗れるほか、医師が同行することも可能だ。四輪駆動車で、車内にはストレッチャーや電動式吸引器、けいれんした心臓に電気ショックを与え正常なリズムに戻すAED自動体外式除細動器、口と鼻からマスクを使って他動的に換気を行うアンビューバッグ、生体情報モニター、絨毯スリッパ、地上デジタル放送受信用のモバイル機器、医療用酸素、免震装置などを搭載、搬送に万全を期す。
こうして民間救急を主力事業に押し上げた碓氷さんの挑戦はこれに止まらない。自然災害リスクが高いこの国の防災に貢献できる体制づくりだ。冷暖房や照明などが整った環境をアイドリング状態で三日間程度は維持できる同社のバスを災害時に配慮が必要な人などの広域避難に活用するアイデアがその一つ。群馬、埼玉両県の四市町と災害時の協定を結び、具体化した。
「困っている状況を、見て見ぬ振りはできない」
社会貢献度の高い一連の事業で貫く碓氷さんの信念だ。
(ライター/斎藤紘)
Eメール/info@s-koutsu.com
https://www.s-koutsu.com/
ワンストップで対応し、費用を削減
周到なスキームで支援
優れた熱安定性・電気絶縁性を持ちながら発がん性、生殖機能障害など強い毒性のために2001年ストックホルム条約及びPCB処理特別措置法に基づき全廃を決定、国内では1968年のカネミ油症事件以降、1972年以降生産輸入及び販売を禁止されたPCB(ポリ塩化ビフェニル)。これを絶縁油に使用した電気機器等のPCB使用製品の廃棄物処理期限が迫る中、処分に困っている事業所の支援で実績を重ねているのが『株式会社環境技術』だ。代表取締役稲垣正泰さんが構築した「PCB廃棄物処理コンサルティング事業」の周到なスキームが頼りにされる理由だ。
「実は弊社は産業廃棄物の専門業者ではありません。主要事業は、『エネルギーソリューション事業』と『環境ソリューション事業』です。元々『エネルギーソリューション事業』の一つである『自社開発を含めたLED照明のご提案』の派生事業が、この『PCB廃棄物処理コンサルティング事業』です。要は、顧客への『照明の更新御提案』の中に当然必要な『廃棄物処理』の一項目であったのが当事業のスタートでした。言い換えれば、他の事業の提案と同じように当初から『ワンストップトータルソリューション』の事業スキームを構築するのが宿命であったのです。PCB廃棄物の処理は、廃棄物処理法にある『事業者は自らの責任において適正に処理しなければならない』に準じています。そのため、PCB廃棄物特別措置法も事業者責任による処理が原則となっています。しかし、PCBの化学的優位性から、通常の処分場では処理できないため、『特別管理産業廃棄物(以後「特管産廃」)』として厳密な保管管理義務を事業者に要求しています。対象となるPCB廃棄物は、照明器具・トランス・コンデンサ・リアクトルなどの受電設備機器、エレベーターの制御盤、チラーなどの空調設備、塗料、汚染土壌など随所にある。各機器には『高濃度』『低濃度』に仕分けされるものが存在しています。しかし、『高濃度』と『低濃度』では処分方法、収集運搬業者が異なり、また、その『高濃度』と『低濃度』の仕分けをする方法が非常に複雑であるのも事業者としてはかなりの負担となります。また、医療用『感染性廃棄物』に代表される他の『特管産廃』と違い、PCB廃棄物の対象機器は高耐久材であり未だ使用されている場合も多いため、処分する際に処分費用以外に『更新費用』も必要となります。その上、自治体への届け出は、使用又は保管している間は毎年必要となり、変更があればその都度届出が必要です。実際我々の現場でも機器を搬出入する場合に屋根や壁も撤去し更新する場合もあります。また、保管事業者には、『特別管理産業廃棄物保管責任者』の設置も義務つけられています。従来の取引企業先は、ほとんどの事業者は『電気保安事業者』となりますが、受電設備は対処しますが、照明の安定器は保安事業者としては対象外です。また『保工分離制度』があるため、『電気保安事業者』は工事ができないのが原則のため、工事業者も必要となります。正直、スキーム構築当初は『なんて複雑で法律に縛られ、事業者に多大な負担を強いる仕組みなんだろう』と思いました。余談ですが、その問題の根幹の原因は、電気保安及び工事業は『経済産業省』、廃棄物処理は『環境省』と管轄省庁が異なる点にあるのではないかと思います」
この対応を事業者担当者がすべて対応する場合、相当の労力と時間が必要となり、また、PCB廃棄物が今後発生する可能性がないため、企業のノウハウとして活用される事はほぼないのが現状。同スキームの根幹は、「適法でありながら、可能な限り事業者に誠実に寄り添い地道にPCB廃棄物の処理を完了する」。そのため、すべての作業を「処理が完了するまでほぼすべてを代行し事業者様の負担を軽減させること」を念頭に構築している。すなわち、助成金等各契約を含め手続きをすべて代行するのと同時に、同社提携企業の連携により「PCB廃棄物の仕分→更新工事→重量物搬出→収集運搬→処分」の実現場をすべて同社にて作業管理を行う。その間、事前事後に弊社が説明責任を果たすので、事業者様は「各書類への署名・捺印」のみとなるようスキームを構築している。また、実現場では一社で完結することはまず不可能。そのため、一案件ごとにすべてのステークホルダーである企業様(=事業者・電気保安事業者・設備管理会社・工事業者等)と連携しながら処理を進めていくように調整を図るようにしている。一事業者あたりの完了までの期間は、平均二年間。これまでのコンサルティングの実績は近畿圏を中心に、金融機関や学校法人、医療機関等50法人250施設を超える。与えられた期間は、「高濃度廃棄物2024年3月、低濃度廃棄物:2027年3月」。地道に事業者に誠実に寄り添い、一件ごと完了させていく。それが同社に与えられた社会的使命として事業に邁進していきたいという。
(ライター/斎藤紘)
Eメール/inagaki@en-tec.jp
https://en-tec.jp/
世界を変えるイノベーション
生体応用まで
レーザーは、IoTを支える光通信や携帯端末、半導体を含めたミクロ加工さらには切断・溶接などのマクロ加工、精密計測・土木測量やライダーなど様々な分野で活躍している。そのためレーザーの高性能化に向けた研究開発が精力的に為されている。特にパワーレーザーの小型集積化は重要で、強力なジャイアントパルス光は、強力電場で原子から電子を引き剥がし物質の極限状態を創り出せる。すなわちパワーレーザーは、プラズマ発生や衝撃波発生を含めた様々な非線形過程を引き起こせるなど、先端科学研究において重要な装置となっているが、温度変化や振動に敏感な大型の精密装置で、効率も悪く大電流・高電圧を必要とするため大学や研究所の限られた場所でしか活用できなかった。しかし、このようなパワーレーザーがマイクロチップ化され、作業現場のロボットに搭載したり手のひらに乗せられるにまで小型集積化されれば、何時でも何処でも誰でも使えるユビキタスレーザーとなり、研究室に限定されていた先端研究を現場に持ち出すことができる(図1)。
そして我が国では、世界に先駆けパワーレーザーに重要なレーザーセラミックスが見出され、そして最近、表面活性化による原子レベルの接合に成功した事から小型集積化されたパワーレーザーが望めるようになった。そしてモバイルやユビキタスにも対応、メンテナンスフリーな上に信頼性が高く、安定して活用できるため、産業・医療分野での幅広い実用化が期待され、産学協同の研究が進められている。この小型集積レーザーの研究・開発に尽力してきたのが、『理化学研究所放射光科学研究センター』グループディレクターで、『自然科学研究機構分子科学研究所』社会連携研究部門の特任教授平等拓範さんだ。
平等さん達は、光の波長と同程度のミクロンオーダーで物質・材料の性質を制御することで光波を高度に操る「マイクロ固体フォトニクス」を提案・先導し、レーザーセラミックスや表面活性接合(図2)によるマイクロチップレーザー、小型集積レーザーを研究開発されてきた。そしてNdやYbなどの希土類による小型集積レーザー(波長 1μm)を実現した。加えて、手のひらサイズのメガワットグリーンレーザー(波長 532nm)、微細加工やレーシックなどで重要な紫外線レーザー(波長 355nm、266nm)(図3)、そして波長118nmに至る真空紫外線への高効率変換にも成功した。さらに、眼に安全な赤外線への変換、そして発生が困難だった光と電波の境界領域のテラヘルツ波域でも高輝度光発生に成功している。テラヘルツ波は、光と電波の両方の性能を有することから封筒を開封せずに包まれている物質を同定できるなどの変わった特性があるために安心・安全分野からの期待も高い。
ところで、レーザーで粒子加速するなら、全長で㎞程度もあるような先端として科学で用いられる加速器を劇的に小型化できるとして注目が集まっている。ただ現在の技術では、体育館が必要なくらい励起用レーザー装置が大型化することが問題になっている(図4)。平等さんがディレクターを勤めるレーザー駆動電子加速技術開発グループは、理化学研究所にて、先端的な加速器をトレーラーやテーブルトップサイズにまで小型化する新たな手法開発を行っている(図5)。一方、分子科学研究所社会連携研究部門にて整備された新たな建家では、その高性能レーザーが産学連携にも展開できるとの社会実証実験への挑戦が行われている(図6)。レーザーによる切断、成形、溶接、材料加工に加え、点火、そして検査、測定、さらに画像解析、医療などエネルギーから生体応用まで議論が広がっている。
光を通してミクロの世界から、未来へ。新たな時代の始まりが見えてきそうだ。
(ライター/渡辺唯)
Eメール/taira@ims.ac.jp
安心を理念に掲げて保育園を運営
健全な自己実現に重要
安心感を与える見守り
福岡県中間市の保育園で2021年7月、5歳の男児が日中約9時間にわたって送迎バスの中に取り残され、熱中症で死亡した事件は社会に大きな衝撃を与えた。
女性の社会進出の増加や就業構造の変化に伴って、家に一人でいることができない年齢の子どもが利用する保育園は医療や介護などと同じく社会の維持に必要なエッセンシャルワーク。その運営をめぐって大きな関心事になったテーマが「安心」だ。刑事責任の有無が問われるような事例は論外だが、積極的保育という独自の保育理論の下、保育理念に「信頼」「感動」とともに「安心」を掲げて45年、幼保連携型認定こども園『大東わかば保育園』を運営してきた園長山本良一さんにその心をお聞きした。
―福岡県の事件をどう受け止めましたか。
「痛ましい事件で、心が痛みます。なぜあのような悲惨な事態を招いたのか、しっかり検証し、保育園自体として、また制度として改めるべきものがあるか答えを出さなくてはなりません」
―事件を離れて、山本さんが早くから「安心」を保育理念に掲げた理由をお聞かせ下さい。
「自分自身のこれまでの人生体験や宗教、哲学、心理学などの分野から得たものから、健全な自己実現を現実のものにするには安心は大切なことであると知ったからです。安心には、お子さんを保育園に預けられる保護者の安心、保育園の職員の安心、子どもが感じる安心の3つの側面があり、いずれも重要です」
―保護者や職員の安心とはどういうことですか。
「保育園では安心して働けるという言い方が保護者の方から、また園の側からは、安心して働いてもらう、安心してまかせてもらうというようないいかたがよくされます。これらの言い方が意味している内容は、保育園の担っている社会的機能としては基本的なものであって、保育園としては保護者の方に安心して働いてもらうために、事故がないように、そして健康面、栄養面において一定の配慮がなされるとともに、友達や担任の先生との関係がよい状態であるように、 園を運営していかなければならないことはいうまでもありません」
―子どもの安心は。
「これらの安心は大人の側から見たものです。当園における安心は、もう一歩踏み込んで一人ひとりの子どもに身を寄せて、子どもが一人の人間としてよりよく生きて順調に成長し発達するためには、安心して過ごせるということが何より大切だと考えているのです。子どもたちが毎日生活する場としての園の保育室だけではなく、 園全体がどのような雰囲気なのかが問題なのです」
―具体的に、保育園で子どもたちが安心して過ごすためにはどうし
たらよいのでしょうか。
「まず、子どもたちが毎日生活する場である園において、もっとも深くかかわる職員の人問関係がよいものでなければならないということです。子どもたちのそばにいる職員間の人間関係が悪くては、子どもは安心できません。確かに限られた場所で毎日生活していると、いろいろな行き違いや誤解が起こります。とくに一つのクラスを複数の先生が担任しているところでは、考えの違いや受けとめかたの違い、食事のときの食器の配りかたや布巾の置き場所にしてもそれぞれのやりかたがあって、感情の行き違いの要因になることがあります。また、職員と保護者との人間関係が悪くては、子どもは安心して園で生活することはできません。園に持ってくることに定まっている物を持ってこなかったり、連絡なしにお迎えが遅くなったり、持ち物が紛失したり、顔にひっかき傷があったりケガをさせられたり、その他いろいろなことが起こってきて、職員と保護者との間にも行き違いや感情のぶつかり合いが生じます」
―そうした問題をどう解決するのでしょうか。
「職員の人間関係については、打ち合わせや話し合いが日常的に行われること、園の基本的な姿勢がいつも子どもの幸せや成長のために努力するものであること、専門職としての知識や技能が評価されるとともに、さらに向上しようという刺激や雰囲気があること、ある段階までは責任をとらねばならないが、最後の責任は主任の先生や園長にとってもらえることがはっきりしていること、これらが専門家としての自覚とゆとりを持たせることになって、人間関係をよくしていくように思います」
―職員と保護者との関係についてはどうですか。
「ちょっとした行き違いや誤解があっても、翌日顔を合わせたときにいつものように朝の挨拶をしたり、連絡帳や直接の会話によって必要なことを伝えたり、子どもの良い面を知らせたりすることによって是正していくことができます。この点では、保育園は多くの幼稚園や学校に比べて非常に恵まれています。毎朝の登園時と夕方のお迎えのときに、保護者の方と直接顔を合わせる機会があるからです」
―園長ご自身も安心のために努力されているとお聞きしました。
「一年のうち数日は、所用や体調をくずして園を留守にすることがありますが、毎日午前7時に登園してくる子どもたちを迎え、一人ひとりの保護者の方と挨拶を交わします。そして、園庭で自由に遊んでいる子どもたちの命のリズムと共鳴するような姿勢で気持ちを込めて見守ります。夕方の四時以後や昼食後その他の自由あそびのときも、同じように見守るよう心掛けています。一人の人間によって見守られるということは、子どもたちも無意識のうちに感じて、 子どもに安心感を与えているように思います。また、 直接保育に当たる先生たちの気持ちのゆとりが子どもたちに安心感を与えますが、先生たちの気持ちにゆとりをもたらすうえにおいても、この園長の姿勢、存在が少なからず作用しているように思います」
(ライター/斎藤紘)