暴走車両が空港の検問所を突破する事件が増えてきている。最近では、ワゴン車で検問所を突破した男が追跡した警察官一人を刺殺する事件や、軽乗用車を運転した男が検問を破り空港内に侵入する事件などがあった。検問所には警備員を置き、グラスファイバー製のバーや車止めも用意していたが、不審車両を食い止めることができなかったという。
こうした世情の中で誕生したのが「ボラード」。検問突破を防ぐ強固なポールをボタンで操作し、空気圧を利用して上げ下げする装置だ。2トン車が時速50キロで衝突しても耐えられるこのシステムは業界をにぎわせたものの、普及率は芳しくなかった。なぜか? 理由は1基約1000万という莫大なコストだ。
「調べてみると、テロ対策になりうるような強固なボラードは海外製品が主流で、ほとんど日本では作られていなかったのです」
こう語るのは「サノヤス・エンジニアリング」の西川岱助社長。研究を積み重ね、空気駆動ボラードの実績を持つ「日機工業」との共同開発によって、国内初ともいえるテロ車両対策ボラード『スーパーボラード 仁王』を実現した。従来の海外製品と同程度の機能を持つが、設置費用は半分程度でおさまるという。
決め手になったのは、二重のステンレス鋼パイプの間に無収縮コンクリートを充填させる新構造だ。これによって十分な強度を確保しながら軽量化に成功し、耐久性の向上と大幅なコストダウンに成功した。金属柱は空圧制御で、必要に応じて上昇下降させて地面から出し入れできる。油圧や電気は使わず、雨水は地下の排水ピットから排出できるため、メンテナンスも容易だ。
西川社長の話は続く。開発にあたり、もう一つネックになっていた問題があったそうだ。
「強固なボラードを作るには、アイデア、経験はもちろんですが、試験場の確保やそれに伴う資金が必要です。それがこれまで国内で製作しにくかった要因でしょう」
製品の性格上、試験できる場所もずいぶんと限られる。しかし同社はボラードの実績がある「日機工業」に人脈を持ち、親会社には東京テクノセンターという試験場もあった。こうした恵まれた環境があったからこそ、1年半という短期間で製品化を実現できたのだろう。
今後も空港のほか、自衛隊施設、政府機関や発電所などで、実積と安全の普及に努めていきたいという「サノヤス・エンジニアリング」。ホームページ上で、試験時の動画を見ることができる。申し込めば、成田市の東京テクノセンターでの見学も可能なので、一度その威力を目の当たりにしてみてはいかがだろうか。
(ライター/近持千裕) |