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株式会社 グリーン・ジョブ 代表取締役
中尾信生氏
長崎県出身。長く航空業界に勤ていたが、農業への志を実現するために2010年に早期退職し『株式会社グリーン・ジョブ』を設立。本来の自然有機栽培として、間伐生竹をパウダーにした『竹肥料農法』で無農薬栽培に取り組んでいる。
ハバネロの他、根菜類も栽培。「来年はさらに作付品目増やしていきたい」と話す中尾氏。 |
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6次産業の創出を目指す
持続可能な農業の選択
荒れた農地を復活させ衰退する地域の農業を復興させることを目的に設立された『グリーン・ジョブ』。その理念は社名に現れている。代表の中尾氏はその理念について次のように語る。
「この『グリーン・ジョブ』という社名の意味は、国際労働機関(ILO)が提唱する『環境への負荷を持続可能な水準まで低減させながら、事業として採算がとれる雇用、およびその仕事』を〝グリーン・ジョブ〟と呼んでいることから取りました。弊社は農業を生業としていますが、慣行農法ではなく、持続可能な自然農法を目指しています。慣行農法では、最近は減農薬を進めていますが、当たり前に農薬を使っています。殺虫剤や除草剤などを土壌に使えば、土壌を活性化させる微生物が死に絶え、自然な循環が無くなり土地が痩せていきます。そのために化学肥料に依存しなければなりません。化学肥料の原料は石油・石炭などのエネルギー原料、リン鉱石、カリ鉱石などで、国産の原料はほとんどなく輸入頼みです。慣行農法は石油頼りの農業とも言え、エネルギーの面からも持続可能な農業とは言えないでしょう。また、化学肥料とビニールハウスで促成栽培しているため味が薄く、本来の野菜の栄養分が少なくなってしまうのです。昔より野菜に味がないと感じている方も多いのではないでしょうか。さらに、TPPへの参加を踏まえ農業の海外への輸出を考えれば、農薬を使った作物よりも無農薬の作物のほうが、市場価値が高いと言えます。日本の農業の海外進出を考えても無農薬栽培はこれから重要になるでしょう。イギリスでは農薬や化学肥料を使わないオーガニックを選択するということが根付いており、作物のみならずコスメや服などライフスタイルとして浸透しています。日本でもすでに減農薬や有機農法の試みは多くの方が行っています。弊社ではそれを更に進めた自然農法を用いています」
同社の自然農法の鍵を握るのが『竹肥料』だ。竹を植繊機などの特殊な機械にかけ、繊維状に細かく粉砕したもので、微生物の食いつきが極めてよく、糖分やケイ酸、ミネラルを豊富に含んでいることもあり、微生物の増殖が盛んになり土ごと発酵が起こる。
「地元は、かつては農業が盛んな土地柄だったのです。私の実家も農業を営んでいたのですが、私自身は農業を継がずに航空産業に就きました。しかしある日気がつくと実家の農地も含めて地域の農地が荒れ放題になっていたのです。農業はここまで衰退していたのかと愕然としました。私はこのままではいけないと思い、地域農業の再生を目指して早期退職、遅まきながら農業を志したのです。しかし農地は生産者の高齢化により手をかけられなくなり竹藪だらけ。そんな時に出会ったのが竹を肥料として利用する『竹肥料農法』でした。増殖した竹を肥料にできれば農地の整備とも合わせ一石二鳥の画期的な農法になると勉強を始め、その農法を実現しようとNPOを立ちあげました。そして事業の継続性を考えて営利法人である『グリーン・ジョブ』を設立したのです」
中尾氏は、まず休耕地や耕作放棄地を借り受け、機械設備などを導入し、荒れ地の整備から取りかかった。
「竹藪を整備して出た竹を委託して『竹肥料』をとも思ったのですが、なんとか自分でまかないたいと、私の思い描く機械の開発を依頼している最中で、もうすぐ1号機が完成する予定になっていて『竹肥料』の自家製造体制も目前なんです。現在は委託した『竹肥料』を使ってさまざまな作物を栽培しています」
『竹肥料』は、1日で1m以上伸びると言われる竹の生命力を田畑に取り込むことでもある。土壌の保水性・透水性が良くなり、作物が甘くなったり、病気に強くなったりすると言われる。
「弊社では自然薯をメインに、アピオスやハバネロ、紫ヤマイモ、セレベス、金ゴマを手がけており、最近では長崎の伝統的野菜である長崎赤かぶも始めました。これらの農作物は化学肥料を使わない『竹肥料』による自然農法によるものなので、安心・安全と共に美味しさにも自信を持っています。この自然農法による作物を地元ブランドとして国際競争力のあるものにしていきたいと考えています」
『グリーン・ジョブ』という社名に込められた理念は、農業に関してだけでなくあらゆる産業にも適用される。中尾氏は、作物の生産だけでなく加工から流通までを視野に入れ、他の産業とのコラボレーションでの「6次産業」を創出し、農業を日本の基幹産業として復興させていきたいと願っている。
(ライター/本名広男)
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