安い海外製品にも負けない
国産テキスタイルにこだわるブレない経営で他社との差をつける
創業以来11期連続で増収を果たし、業界の注目を集めているのが『宇仁繊維』。1999年、大手織物会社で44年のキャリアを積んだ宇仁龍一社長が定年後、大阪市に設立したテキスタイルメーカーである。不況のなか、業界全体では大幅な売上低下が続く中、設立から好調な収益を実現する経営の秘密はどこにあるのだろうか。
宇仁社長の答えは、「普通のことを普通にやってきただけ」というシンプルなもの。「弊社の規模の会社で変わったことをやろうとしても十分にはできない。ただテキスタイル、それも国産しかやらないという点では、ブレが一切ない」と話す宇仁社長はエンジニア出身。品質の高い日本製にこだわるのも、技術職出身ならではのものづくり魂がゆえといえそうだ。昨今の衣料品市場は海外資本などのファストファッションが全盛。絶対的な安さでは海外製品にかなわない部分もある。それでも同社への引き合いは相次ぎ、取引先は3千社にも上る。同社は、大阪・東京・名古屋の各ショールームに、生地の種類と色柄の組み合わせで常時1万5千点を超えるサンプルを揃え、最短7日で納入する体制を構築し、一般的な納期の半分以下という圧倒的なスピードを実現している。また、同社の基本戦略は〝値上げをしないこと〟。「震災の影響を受けたところもあるようだが、おかげさまで当社はそれほど大きな影響はない。生地の〝コンビニ〟として気軽に買ってもらえるという便利屋機能がプラスに働いたのだろう。原料高の問題もあるが、当社の場合は販路が問屋からSPAやアパレルへと変化していることもあり、全体として利益を出せている」と、価格戦略に関して宇仁社長は語る。それとともに、ハートが込められてつくられた国産の質の良い製品であるという絶妙なバランスが、大きな需要を生み出している。
約70人が所属する企画営業部では、全員がデザインから営業までを担う。宇仁社長自身もデザイナーであり、年間2億円以上を売り上げるトップセールスマンでもる。同社の採用基準は「コミュニケーション能力と大の服好きであること」。「服が好きな人間が集まって、自分の着たい服(生地)を作って、自分の開拓先に買っていただく。好きなことだから一生懸命になり、熱もこもる。おもしろくなければやめなさい。楽しくやろうや」と社長は人材育成について話す。
近年では、同社得意の薄手生地との相性の良さからインナー業界にも進出。基準の厳しい「エコテックス規格100」の認証も取得し、世界的なインナーメーカーとも取引が始まっている。さらに、今年の3月には北京で開催された大きな展示会に出展し、今後は輸出事業も強化していくとのこと。ますます進化を遂げる同社の今後の展開に、目が離せない。
(ライター/奈須美子)
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