株式会社 新羅 昆野裕氏
最後の対面をしたとき、「大変だったね」ではなく「眠っているようだね」と声をかけられるよう、心をこめて修復に務める。これまで自宅や葬儀所はもちろん、警察の安置所などあらゆる場所でさまざまなご遺体を復元させてきたという。高い技術と真心こもった姿勢は、多くの遺族の悲しみをやわらげてきた。
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傷んだご遺体を復元し、在りし日の姿を映し出す
安らかな旅立ちを遺族とともに願って
故人との最期のお別れのとき。棺に納められたご遺体をみて、安らかだ、まるで眠っているようだと感じることがある。そんなとき、私たちは悲しみの中にもほんの少しなぐさめを見出す。だが、苦しみ疲れ果てた様子で横たわっていたならば、悲しみは増してしまうことだろう。しかしご遺体の状態はさまざまだ。闘病のすえお腹に水が溜まっていたり、顔や体がむくんだり、変形していたり。事故で傷んでしまったご遺体や、お年寄りが孤独死したまま発見が遅れ腐敗してしまうケースなども増えているという。そんな難しいご遺体を中心に納棺作業を行っているのが、国内トップクラスの修復技術を誇る『新羅』である。
同社の昆野裕氏は、海外で本格的な遺体修復技術を修得。ひどく傷んでしまったご遺体であっても復元する、国内トップクラスの技術の持ち主だ。専門家による遺体の修復・防腐処理は海外では一般的だが、日本ではまだまだ馴染みがない。昆野氏がこの技術の必要性を痛感したのは、納棺士としての仕事を通じ、とてもひどい状態の遺体を見たことがきっかけだった。
「これまで苦労を抱えて生きてこられた故人が、いたんだままの体で見送られ、この世を去ろうとしている。その人の最期はそれでいいのか。やりようのなさとどうにかしてあげたいという強い思いに突き動かされました」その思いが、昆野氏に海外での本格的な技術修得を決断させた。やつれてしまった頬をふっくらとさせ、元気だったときの面影をよみがえらせる。人形とは違い、人にはそれぞれ個性がある。崩れてしまった状態を復元させるテクニックだけでなく、個性まで表現していくことは非常に難しいという。昆野氏と『新羅』の高い技術は、まるで眠っているかのような安らかな姿を作り出す。まさにこれこそ、同社が国内トップとして業界で高く評価されるゆえんである。
「私が来たから大丈夫」と昆野氏は故人に心の中で語りかける。「どんな遺体でも、遺族の方が満足のゆくお別れができるよう、そして亡くなった方がきれいな姿でこの世を去れるように、さらなる技術の向上に励んでいきたいと思います」技術と高い評価を得た現在でも、おごることなく勉強会などに積極的に参加。日々研鑽に励む謙虚な姿に、昆野氏の真摯な人柄が感じられる。2011年の東日本大震災の被災地で、多くの別れを知る昆野氏にとっても、忘れられない震災だったという。
「あの世への旅支度を任されたのは、目の前にあるご遺体の方と『縁』があってこそ」との思いを込め、一人ひとり丁寧に、細心の心配りで修復し、棺に納める。遺族からの要望にもできる限り応えていきたい、という昆野氏。旅立つ人との別れの儀式を、悔いなく送りたい方のために。愛する人の「永遠の眠り」を形にする同社の技術は、これからますます必要とされていくだろう。
本文
(ライター/石井奈緒子)
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